東証のプライム市場に上場する企業を対象に、「決算短信(通期・四半期)」「決算補足説明資料」「適時開示情報」の英語版の同時開示が義務化されることになりました。
2025年4月以降に開示する資料が対象で、将来的にはこれら以外の資料も追加される可能性があります。早いうちから準備を進めることが、投資家との関係を築く鍵となります。
この記事では、英文開示の準備を進めるにあたり、押さえておきたいポイントをお伝えします。
1. なぜ英文開示が重要なのか
-英文開示の内容は投資家からの評価に大きく影響-
海外投資家が投資を検討する際に、最初にアクセスするのは英語版のIRサイトです。海外投資家にとって、英文で情報開示されていることは投資の前提条件であり、その質や充実度は投資家の評価を左右します。
しかし、海外投資家のニーズと実際に開示されている情報の間には乖離があると言えます。2023年末時点、英文開示が義務化された「決算短信」を全て英語で開示している企業は、プライム企業の76.4% i です 。また「有価証券報告書」の英文開示を求める投資家は85% ii ですが、全文を英語で開示している企業は18.1% iii に留まります。
2. IR資料の英訳で気をつけなければならないこと
-正確さと適時性の両立で海外投資家からの信頼を獲得-
海外投資家の信頼を獲得するためには、以下の3つのポイントをおさえて、早いうちに可能な範囲から英文開示を進めていくことが重要です。
- 情報量:十分な情報量があること
- 正確性:IR分野の専門用語を適切に訳せていること
- 一貫性:資料間での一貫性があること
1. 情報量
1つ目のポイントは、日本語版と同じ情報量を開示することです。
海外投資家の72%、日本語スタッフがいない場合は84%が、「日本語版と同じ情報量が開示されていないこと」に対して不満を感じています iv 。現在英文開示されているものの中には、導入部分のみが英訳されたもの、詳細な情報が省かれているものもあります。しかし、投資判断において重要な情報を得るためには、資料全体の英文開示が求められます。
2. 正確性
IR情報や財務情報の翻訳においては、日本語の資料と同様に、投資家に向けた文書として適切な表現や用語を選択する必要があります。IR資料を、その専門性を維持したまま英語にするには、難解な日本語を読解する能力に加え、英語のIR用語に精通した翻訳者に依頼することが重要です。
3. 一貫性
英文での開示は継続して行うものです。同じ質を維持し、資料間で用語を統一することで、投資家の混乱を防ぐと同時に、会社のブランドを印象付けることができます。過去訳をもとに用語や言い回しの一貫性に留意することで、継続してクオリティの高い英文で情報を開示することが可能になります。
これらの3つのポイントをおさえて、適時性と英文の質を両立することで、海外投資家にとって日本国内の投資家と公平な状況を作ることができます。これは海外投資家からの信頼を得る決め手となります。
すぐに全部は難しいと思われるかもしれませんが、今から少しずつでも英文で開示する情報を増やしていけば、2025年4月までに英文開示の体制を整えることができます。
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参考文献
- i 株式会社東京証券取引所「英文開示実施状況調査集計レポート」p.6
- ii 株式会社東京証券取引所「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果」p.17
- iii 株式会社東京証券取引所「英文開示実施状況調査集計レポート」p.6
- iv 株式会社東京証券取引所「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果」p.8
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