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アルバニア・サランダ「婚礼の夜へ」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

アルバニア・サランダ「婚礼の夜へ」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、アルバニアでの偶然の出会いが重なって生まれた「素敵な夜」の思い出をお届けします。

婚礼の夜へと誘う糸の端はサーシャが握っていた。

アルバニアの南部の都市、サランダ。

そのサランダからさらに1時間ちょっと車で南下したところに、クサミルという名の街がある。いくつもの小島が浮かぶ湾で知られるクサミルのビーチ沿いのカフェで、太陽が少し西に傾いた頃。私が2歳の男の子、サーシャの落としたボールを拾ったことから、すべては始まった。

サーシャの母、ユーカは40歳、アルバニア生まれで現在はオランダ暮らし。子どもはサーシャを含めて3人、上の2人は学校があるから連れてはきていない。夫はパリで日本語を教えているのか、日本語を勉強しているのか、日本人の学生を教えているかのいずれからしい(彼女の早口の英語についていけず)。ポンポンと弾むように話し、合間にちょろちょろと走り回るサーシャを追いかけて、店の奥へと行き店員と談笑して、サーシャを連れて戻ってきては、また話を続ける。ということを繰り返すこと数回。

「夫は日本で暮らすことが夢なの」
「じゃあ、来年の夏は日本で」
「そうね」

そんな会話の後、「いい休暇を」と挨拶を残し、サーシャを追いかけて慌ただしく動き出したユーカ。私も会計を済ませ、ビーチに降りようと動き出す。

と、そこへ再びサーシャを抱いてユーカが戻ってきた。"I give you some good information"と断ってから、「サランダの城からの眺めはとてもいいのよ」と言う。

「アルバニアでは結婚式は4日間続くのよ。それはそれは印象に残る素敵なものよ」
ふむふむと頷きながら聞く私に、「ねえ、参加したくない?」とユーカ。
話の急展開についていけず、リアクション停止状態の私に、ユーカがさらに畳み掛ける。
「音楽をかけて踊って、ごちそうもたくさん!もちろんタダよ。100人も来るのよ」
「いい?城に行く途中の左側よ。ヨーコが来ると主催者に言っておくから」
最後に"Don't forget!"と言い残し、ユーカは去っていった。

どうやら私はユーカの親族の結婚式に招待されたらしい。主催者をorganizerと表現するあたり、相当な規模のようだ。しかし「城に行く道の左側」だけで発見できるものだろうか...。

ともかく、城に行くのは悪くない。結婚式は空振りに終わったとしても...。

いったん宿に帰り、少しの仮眠をとった後、私は街でタクシーをつかまえ、城へ向かうことにした。左側の席に陣取り、目を凝らしていると、リボンと風船で飾られた門が見えてきた。「ウェディングパーティーか?」とタクシーの運転手に確認するも、全く英語が通じない。アルバニア語で結婚式は何と言うのか、ヒントもないまま城に到着。まずは城を見て回り、さてどうしたものかと考えながらタクシーに戻ってくると、乗客が2人増えていた。仕事熱心な運転手が新客の男女をつかまえてきたのだろう。しかも、男性は英語を話せるようだ!これは心強いと、内心ホクホクしながらタクシーに乗り込む。
彼は、今はアルバニアに住んでいるが、出身はコソボのプリズレンだという。「ああ、古い街だね。アルバニアの後に行ってみようと思っている」と告げると、「それはいい」と小さく頷いた。

そうこうするうちに、リボンで飾られた門が見えてきた。
"Stop!"
タクシーを止めて、彼に通訳を頼む。「結婚式に招待されているから、ここで降りる。1時間後に迎えにきてほしい。その分の料金として別に1,000レク払うから」
「金はどうなる?」「時間は?」矢継ぎ早に問うてくる運転手に、私は彼に英語で、彼はアルバニア語で運転手に、同じことを繰り返す。ようやく納得した運転手に「じゃあ後で」、彼に「ファレミンデリト(ありがとう)」と唯一覚えたアルバニア語で礼を言い、別れた。 本当に、この家であっているのか...。一抹の不安も、入口でユーカの姿を見つけ、吹き飛んだ。アルバニアの伝統音楽のもと、ダンスの輪にも(少し)加わり、踊る美女の写真を撮り、甘いお酒を飲み...。最後はユーカとサーシャ、さらにご両親も加わって記念撮影をぱちり。別れを惜しみながら、迎えに来たタクシーに乗り込んだ。

「ユーカの言った通りだったな」
そう一人つぶやき、私はシートに深く身を沈めた。サーシャに、ユーカに、異邦人をあたたかく迎え入れてくれた皆さん、それにタクシー運転手とプリズレン出身の青年...。すべてがつながって生まれた、"それはそれは印象に残る、素敵な夜"に想いを馳せながら...。

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