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ラブリー・アイルランド!「アップルパイは250円?」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

ラブリー・アイルランド!「アップルパイは250円?」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

アイルランド

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回はアイルランドから緑の風に乗せてお届けします。

アイルランドの首都ダブリンから北へ50kmほど、ドロヘダに向かうバスの行き先表示はゲール語(アイルランド固有の言語)のみ。

ローカルな雰囲気が漂う。
バスを降り、約8km離れたニューグレンジ遺跡に行くための自転車を借りる前に、水と軽食を仕入れようと、小さな雑貨店の扉を開けた。
"Lovely morning"
おばあちゃん店主のアイルランド流の挨拶が朝の爽やかな空気に鈴のように心地よく響く。
店内を物色していると、カランカランと背後で乾いたベルが鳴り、続いて"Lovely morning"の声。
"lovely"のイメージとはかけ離れたバリトンの美声に驚いて振り返ると、そこには見上げるほどの大男。

「アイルランド人ときたら、天気でも食べ物でも、しまいには挨拶まで、何でもラブリー(lovely)だろう?」
アイルランド人の口真似をしながら揶揄するアメリカ人。映画で見たそんなシーンを思い出す。
おばあちゃんの"lovely"はかわいらしいが、大男のそれは何やら微妙で、にわかには受け入れがたい。

大男の登場で一気に狭くなった店内から早く脱出しようと、急いで目を走らせると、ショーケースにアップルパイを発見。これは美味しそうだ。だがデカい。
「美味しそうなアップルパイだね」
「もちろん、ラブリーよ。私がつくったんだから」
この場合は「おいしい」の意味のラブリーを、おばあちゃんは口を窄めてチュッとしながら茶目っ気たっぷりに返す。
「これを切って、1ピース買うことはできない?無理なら四分の一とか...」早速、交渉を開始するが、おばあちゃんは申し訳なさそうに首を振る。
「うーん、切ってもらうのは無理か」
「OK、わかったわ」
諦めようとした矢先に、思いがけない返事。値段を尋ねると、日本円にして約250円とリーズナブル。「よしよし」と両者笑顔で納得し、支払いを済ませる。
いったんおばあちゃんがアップルパイを持って奥へ入ると、大きな包みを持って再び現れた。
この包みの大きさは・・・!どう見てもホール!
「ちゃんと切っておいたから大丈夫よ」
目を見張る私に、おばあちゃんはウインクを送ってよこす。
どうやらおばあちゃんは、私のリクエストを「(食べやすいように)切り分けてほしい」と受け止めたようだ。

緩やかなアップダウンを繰り返し、緑の丘を縫うようにくねくねと続く道を自転車で走り、ようやく目指すニューグレンジ遺跡に到着。ピラミッドよりも古いという先史時代の遺跡だが、白い石壁の上に浅い緑のお椀を伏せたようなカタチの丘陵で、周囲の景色に同化し、どこか牧歌的だ。

観光もそこそこに、すぐ近くの緑の天然の絨毯に腰を下ろし、アップルパイの包みを開く。8ピースに切り分けられた三角形をガブリ。手元ではさらにデカく見えるそれは2つで十分、満腹になる量だ。夕食のデザートと翌日の朝食にいただき、美味しく完食したが、これで250円は安すぎるよ、おばあちゃん!
りんごがぎっしりと詰まったおばあちゃんのアップルパイは、アイルランド旅行の中でも印象に残る"lovely"な思い出になった。

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