お客さまの「クレーム」は「期待」
February 25, 2020
「クレーム」と呼ばずに「ご指摘」
とある企業の工場見学に行ってきました。品質保証部の方がおっしゃっていた言葉に、その企業のDNAを感じたのでご紹介します。
その企業では、お客さま相談室にかかってきた電話の内容を「クレーム」とは呼ばないそうです。では、なんと呼ぶのでしょうか。彼らはそれを「ご指摘」と言います。英語だと「feedback」ですね。
「ご指摘」とは、世間一般の言葉で言うと「消費者からの苦情」にあたることが多いと思います。「商品の味が変だ」「商品に異物が入っている」......。しかし、その企業はこれらを「苦情」とは考えていません。お客さまが抱えて困っている問題に対して「解決してほしい」という「期待」と捉えています。その期待に応えることを使命にしているのです。
そのために、できる限り「ご指摘」のあった商品は、社員が直接取りに行ってお預かりしているそうです。それが例え100円の商品であろうとも。
日本語には、「言霊(ことだま)」という言葉があります。言葉に宿ると信じられた霊的な力のこと。英語だと「soul of words」「power of words」というところでしょうか。「クレーム」という言葉を使うと、両者の間に加害者/被害者の意識が自然と芽生えやすくなるものです。このために、言葉から変えているのでしょう。
たとえ誤認でも説明責任はある
実際には、ご指摘のほとんどがお客さまの事実認識の過ちによるものだそうです。しかし、それをお客さまにご理解いただくための努力も彼らはしています。「アカウンタビリティ(企業の説明責任)」ですね。
「臭いが変だ」というご指摘に対しては、臭いの成分を分析して、例えば防虫剤の主成分であるナフタレンが多いと分かると、保管場所の問題の可能性を探ります。また、虫混入のご指摘に対しては、虫の死亡日を測定して、それが工場出荷日に比べて前かあとかを調べ、もしあとであれば、開封後の混入の可能性を告げる、などしているそうです。
一方でわたしたちアークコミュニケーションズでは、お客さまがサービスに不満足であることを際立たせるために、あえて「クレーム」と言う言葉を使います。しかし同時に、それは「お客さまの期待」であることも理解しているつもりです。なぜなら、不満があっても、何も言わずにただ立ち去るお客さまがたくさんいることを知っているからです。
お客さまへの説明責任を果たすためには、改善策・事故予防策を立てています。わたしたちは普段からB2Bビジネスを営んでいるので、お客さまご自身も社内に対して説明責任を持っていることがよくわかっています。場合によっては、「お客さまのお客さま」に対して、わたしたちが説明責任を果たすこともあります。やろうとしていることは、その企業と何一つ変わらないのです。
実は「クレーム」は和製英語
ところで、「クレーム」という言葉は日本でよく耳にするのですが、これを海外で使うと、なかなか意味が通じないのはなぜでしょうか。実は、前述のような場面で「クレーム」という言葉を使うのは、日本独特の表現(和製英語)だからです。英語で「claim」とは、「要求する」または「言い張る」、「主張する」という意味。日本語における「苦情を言う」という使い方からは大きく離れていますね。
それでは、苦情を言いたいとき、英語では何と言えば良いのでしょうか。日本語の「クレーム」の意味では「complaint」を使い、「クレームを出す」のは「to make a complaint」と言います。
日本語で苦情を言うときに「クレーム」という言葉を使い始めたのは、おそらく、英語の「to claim for compensation」(補償を要求する)から来ているのではないかと思います。一方で、ポジティブなフィードバックの場合は、日本語と同じく「feedback」を使うことが海外でも多いので、こちらは安心して使って良い表現となります。
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