2023年7月
社員インタビュー 小川 五壱(おがわ こういち)
アークコミュニケーションズのアートディレクター兼デザイナーである小川五壱。Webデザインだけでなく、グラフィックデザインなど、幅広い分野のデザイン業務を担当しています。アークコミュニケーションズのデザインは、企業のコンセプトや方向性などのブランドイメージをユーザーの感性に結びつけることに定評があり、多くのお客様から高い評価を得ていますが、その源泉となっているのが小川です。「自分でもできそう」という軽い動機で飛び込んだデザインの世界で、私たちを牽引するアートディレクターになるまで、興味深い話を聞くことができました。
「横文字の職業なら何でも良かった」
-最初に、小川さんは、なぜデザイナーになったのか教えていただけますか。
もともとは、温度調節器のメーカーでリモコンの基板を設計する仕事をしていました。ある新製品発売にあたってカタログを作ることになり、そこで初めて「デザイナー」という肩書の人と出会いました。デザイナーという仕事には興味があったものの、まったく縁がなかったので、どんな仕事をするのか楽しみにしていたのですが、その仕事ぶりを見ていたら、とても面白そう、と思うと同時に、「自分にもできそう」と直感的に思ってしまいました。そこで、いきなり会社を辞めてデザイナーの就職口を探しました。
普通、デザイナーになろうと思ったら、専門学校や大学など、まずは教育機関で学んでから、と考えると思うのですが、私の場合は、年齢的にそんなに時間もないし、今更高い学費を払うのは嫌だという思いもありましたので、とにかくデザイン会社に潜り込むことだけを考えました。「タダでいいから働かせてくれ」をキャッチフレーズに、色々なデザイン会社にアタックしました。それでもなかなかうまくことは進まなかったのですが、渋谷のとあるグラフィックデザイン会社の人が「面白い」と言ってくれて、そこで働くことになりました。実際にはまったくタダということはなく、交通費と食費だけはもらいましたが。
-面白いエピソードですね。そこからすぐに正社員になったのですか。
交通費と食費だけを支給してもらったのは最初の3か月間だけで、その後に正社員として採用してもらいました。実は僕ともう1人の新人がいて、3か月後に正社員採用されるのは1人だけという条件だったのですが、当時のデザイン会社は残業時間も多く、かなりハードな仕事場でしたので、その人はどうやらそれに耐えられなかった感じでした。
私の方は、もともと勉強のために会社に行っているようなところがあったので、言いつけられた仕事の合間でも、先輩デザイナーの後ろについて何時間でも仕事の仕方を見ていました。そうしたスタンスの違いを会社が見比べて、結局、私の方を採用したということだったようです。
-デザイナーになりたいという強い思いが通じたんですね。
当初のデザイナーになりたいという動機にはあまり深いものはなくて、「横文字の職業は格好いい」「格好いい仕事ならきっと頑張れるんじゃないか」という程度のことでした。デザイン会社に入ってからは、それまでの自分とまったく違って、デザイナーになるためだったら何でもする、というがむしゃらな取り組み方ができましたし、結果的には強い思い、と言えなくもないですが、きっかけは浅いですよね(笑)。最初は浅くて、やるごとに深くなっていったという感じでしょうか。
グラフィックデザイナーからWebデザイナーへ
-アークコミュニケーションズに入社した理由について教えてください。
デザイン会社に在籍していたときのお客様のひとりが今のアークの上司で、その頃は、会社案内や機関誌などの制作をご依頼いただいていました。私が他社に転職するときにもいろいろと相談に乗ってもらうようないい関係でして、最終的にその縁で誘ってもらいました。
当時、私自身はグラフィックデザインの素晴らしさに目がいっていたので、Webデザインにはあまり興味がなかったのですが、時を経て、そろそろWebデザインもやっておくかな、という思いが芽生えたところで入社を決心しました。
-今ではWebデザインを中心に活動されていますが、どのような気持ちでグラフィックデザイナーからWebデザイナーに変わったのですか。
Webデザインについては、当初は、HTMLの制約と自分の知識不足の両方があったので、正直、「大したデザインができないな」、という印象でスタートしました。そのうち、UI(ユーザーインターフェース)の進化などに興味が出始めて、それを学んで実践し、さらに学んで実践し、を繰り返すうちに気がついたらWebデザイナーになっていたという感じですね(笑)。アークはWebデザインもグラフィックデザインも両方できる環境なので、今のところどちらのデザインも優劣つけがたい感じで、楽しみながら仕事をしています。
-デザインをされるとき、どのような点を心がけていますか。
常に「人を驚かせたい」という気持ちがあります。パンフレットなど紙のデザインをやっているときから、普通にパンフレットを作っていても面白くないと思って、紙や手法にこだわるような仕事をしてきました。Webデザインをするようになってからも、ただ単に上から下へスクロールするだけではつまらないので、そこに映像を入れ込むなど、ちょっとした工夫をしています。「人を驚かせたい」といっても、びっくりするようなことをしたいというよりも、「ごく普通のことをごく普通にするのではなく、ごく普通のことでも必ずちょっとしたスパイスを効かせたい」という感覚です。ちょっとした工夫のお陰で「ずっと見ていたい。ずっと触っていたい」と思えるデザインになるように、いつも心がけています。
B2Bの企業サイトデザインにこだわる
-現在のWebデザインについて想うところを教えていただけますか。
Webサイトの流行は目まぐるしいですね。その流れ、トレンドを捉えながらデザインを進めるのはとても大事です。ただ、トレンドの中にはそれがスタンダードになって定着するタイプのものと、本当に一過性ですぐに飽きられてしまうものがあるので、それを見極めるのが重要ですね。
特にわたしたちが手掛けているコーポレートサイトなどは、2,3年からもっと長期に渡って同じデザインで発信し続けるものなので、あまりにも時代性を追いかけると、古くなったときの劣化が激しくなります。お客様と運用しながら少しずつ変えていくことでそれを防ぐのですが、ベースのデザインが古いと防ぎようがなくなってしまうので、リニューアルの段階からそれには気を遣います。
また、ここ最近のWebのデザインには、1ページの中で「区切り」をつけないデザインが多く採用されるようになっています。「シームレスなデザイン」と言ったら良いのでしょうか。今までは、1つひとつのコンテンツを作り、それらをつなげてページを作り上げていたのですが、今は、大きな1枚の紙の上で、連続的に表現が変化するようなデザインが多くなっています。たぶんこれからも、このような変化がどんどん起きるのがWebデザインの世界なので、デザイナーとしては楽しみながら、気をつけながら取り組んでいきたいと思っています。
-消費者向け(B2C)ではなくB2B向けの企業Webデザインにこだわる理由は何なのでしょうか。
格好がいいからです。一般的に、B2Cのほうが格好いいと思われがちなんですが、B2CのWebデザインでは、ターゲットが幅広く、あらゆる人たちに魅力をわかりやすく伝えるという制約が生じると思っています。それに比べるとB2B向けの企業Webは、特定のユーザーに向けて、その企業が持つブランド、コンセプト、方向性といった抽象的なテーマをいかにスマートに見せるかが重要になってくるので、それを私は「格好が良いデザイン」と感じています。格好よさをデザインで表現しているときが一番楽しいし、充実感がありますね。
-デザインに新しい要素を盛り込むときに、どうやって勉強しているのですか。
基本は、参考になる書籍やWebサイトなどから情報をインプットするようにしています。そして、それを実際に、自分のオリジナリティを出さずそのまま作ってみます。それを続けているうちにある程度、対象となるデザインの手法がわかってきて、次にいろいろなものをサンプリングして、自分なりのオリジナルなものを作っていきます。
お客様から「こんなWebサイトを作りたい」とサンプルになるWebサイトをご紹介いただく場合でも、まずはそれをまるごと作ってみることで、お客様のサイトに向く書体やバランスがわかってきます。そうしたら今度は、お客様のコンセプトに合う要素をいろんなところから見つけて、それを取り込みながらオリジナルで作っていくという手順です。
-そうしたことはご自身で考えたのですか。
デザイナーの先輩に教わりました。これはグラフィックデザインの話なのですが、例えば練習のために1つのチラシや雑誌広告の1ページをそのまま真似して自分で作ってみます。文言や文字の大きさなどもそのままで。そして次に、自分なりにレイアウトを変えてみる。それを繰り返してやっていくうちに、自然とデザインの手法を覚えていきました。落書きのような走り書きから次第にデザインが生まれていくという過程が、私のデザインです。
「好き」「嫌い」でWebの良し悪しを判断しない
-企業Webのデザインの方向性について考えるときに気をつけていることは。
気をつけているのは、「好き」「嫌い」という「好み」でデザインの良し悪しを判断しないことです。また、どんなものでも「嫌いにならない」ようにしています。お客様とは、向く方向を同じにするために、できるだけ多く話すことにしています。でも、決してお客様にまるまるお任せすることはしません。デザインに関しては、こちら側でプロデュースするようにします。こちらからのお勧めを、できるだけ言葉で表してご安心していただくことは、大切なことだと考えています。
-今後、手掛けてみたい仕事はありますか。
UX(ユーザーエクスペリエンス)をもう少し追求してみたいと考えています。実はグラフィックデザイナーなら、UXはすでに無意識のうちに経験しています。なぜなら、グラフィックとは実際の「もの」だから。ユーザーはグラフィックに「触れる」ことで、実際にデザインを体験しているわけです。それを今度はWeb上で、映像や構成なども含めて考えることで、その先に別のものが待っている気がしています。
-これからデザイナーとして腕を上げたい後輩へのアドバイスをお願いします。
先ほど、デザインするときに、まずは先入観を捨ててありのままを再現してから自分のオリジナルを作り上げるという手法でデザインするというお話をしました。実は私がデザイナーになったのもこれを同じ手法でして、先輩の模倣からスタートしました。これって、廻り道のようでいて、実は一番の近道だと思っています。ですから、これは凄いと思う作品を見つけて、その模倣をたくさんしてみてください。模倣される中に私のデザインが入っていたら、もうそれはとても嬉しいですし、そうしていただけるよう、自分自身の進化も重ねていくつもりです。
プロフィール
小川 五壱(おがわ こういち)
東京町田出身。趣味は、サッカーとキャンプ、自動車など。サッカーは小学生からやっているが、現在は現役を退いたという。その代わりに、ご子息があとを継いで高校のサッカー選手に。キャンプはファミリーキャンプが好き。自動車は、その昔、アメリカの四輪駆動車に凝って改造などをして楽しんでいた。
私の1本の映画
『私立探偵 濱マイク』シリーズ(1994年、1995年、1996年、日本)
主演は永瀬正敏。監督は林海象、脚本は林と天眼大介共作。アメリカのハードボイルド小説『マイク・ハマー』シリーズをオマージュした映画の3部作。1作目は全編モノクロで撮影されたノスタルジーあふれる作品。それが格好よくて憧れたという。
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