対談記事

2022年1月

データに基づく経済政策を推進して20年、RIETIが目指す研究活動の広報とは

独立行政法人経済産業研究所(RIETI)は、数量的・統計的データに基づく経済政策提言をミッションとして2001年に設立された政策シンクタンク。新型コロナ対策など文系・理系の枠組みを超えた文理融合研究や、データに基づく政策を実施するEBPMなど、20年以上にわたる研究をベースにした活動は、「霞ヶ関の知的プラットフォーム」として内外から高い評価を得ています。アークコミュニケーションズは、RIETIの季刊広報誌である『RIETI Highlight』のデザイン制作業務を2007年より担当。今回はお忙しい矢野理事長にもご登場いただき、RIETIの基本理念から広報誌の編集方針など多岐にわたるお話をお聞きしました。

対談,アークコミュニケーションズ,独立行政法人経済産業研究所
プロフィール
矢野 誠   独立行政法人経済産業研究所 理事長
佐分利 応貴 独立行政法人経済産業研究所 国際・広報ディレクター
谷本 桐子  独立行政法人経済産業研究所 国際・広報副ディレクター
渡邉 丈洋  独立行政法人経済産業研究所国際・広報グループ クロスメディア・チーフ
宮澤 摩周  独立行政法人経済産業研究所国際・広報グループ クロスメディア担当
豊田 祐子  独立行政法人経済産業研究所国際・広報グループ クロスメディア担当
大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役
佐藤 佳弘  株式会社アークコミュニケーションズ 執行役員 Web & クロスメディア事業部長
小川 晃一  株式会社アークコミュニケーションズ Web & クロスメディア事業部 デザイナー
  株式会社アークコミュニケーションズ Web & クロスメディア事業部 デザイナー

エビデンスに基づく経済政策を標榜して20年

大里:はじめに独立行政法人経済産業研究所(RIETI)創立20周年、おめでとうございます。この20年を振り返りながら、RIETIの役割や実績についてご紹介いただけるとありがたく存じます。

矢野様:アークコミュニケーションズさんには、いつも広報誌『RIETI Highlight』をお手伝いいただき、本当に感謝しています。表紙から中身、レイアウトなどすごく工夫していただき、また、それぞれの号の特集記事の内容に合わせた表紙のデザインも大変気に入っています。制作進行スケジュールへの柔軟な対応についても、スタッフ一同いつも助けられています。今後とも、そうした点も含め、引き続きよろしくお願いいたします。

大里:こちらこそ、お褒めいただき、まことにありがとうございます。弊社にとって大変大きな励みになります。

矢野様:それでは、RIETIの役割や意義について、簡単にお話しさせていただきます。

RIETIは、これまで20年にわたり、世界トップレベルの政策研究・政策提言を行う、いわば政策形成の新たなプラットフォームとして活動してまいりました。特に近年はEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング:データに基づいた政策の立案)を定着させるために活動しています。日本ではややもすると、「鉛筆を舐める」と表現されるように、勘と経験に頼った政策が作られてきました。それを、データや証拠に基づいて、検証可能なかたちで政策を立案しようと主張してきたのです。

第2次安倍政権の時に、政府内部でもこのEBPMをハッキリと打ち出す方針が固まり、わたしたちが日々提唱してきたことが政府の中で定着しつつあることを喜ばしく感じています。特に若手の政策担当者のあいだで、経済学者が主張してきたエビデンスに基づく政策立案が進んでいて、これこそがわたしたちがやってきたことの意義の一つだとうれしく思っています。わたし自身はRIETIに着任してから研究のトップである所長を4年、組織のトップである理事長を2年弱務めておりますが、こうした成果は、先人のご尽力のおかげだと思っています。

大里:矢野理事長がRIETIに着任されてから、新たな取組や研究テーマが出てきたと聞いています。特に意識されていることをお教えいただけますか。

矢野様:色々ありますが、例えば、「文理融合」があります。文系と理系の人間が日本の経済全体でうまく協力できていないのが、日本の大きな問題だと捉えています。たとえば、今は「技術革新」や「イノベーション」と言う言葉がやたら出てきます。それらをセオリーではなく、実際に組織の中でどういうかたちで打ち出していくのかを考えると、文系と理系の両者の理解に基づかないと難しいのではないかと思っています。

大里:「文理融合」に関しては、矢野理事長は研究者としてコロナに関する研究で実践されていると伺っています。コロナのような幅広い分野に影響を及ぼす課題については、「文理融合」のアプローチがとても重要ですね。

広報誌を紙で発行する意義

佐藤:わたしたちが制作のお手伝いをさせていただいているRIETIさんの季刊広報誌『RIETI Highlight』についてご紹介いただけますでしょうか?

谷本様:RIETIでは、論文等の研究成果やシンポジウム・セミナー等の結果をわかりやすく紹介するために、2005年1月から『RIETI Highlight』を発行しています。当初は広報スタッフによる手作りの「かわら版」のような薄い冊子から始まりました。年月が経つに従い、アークコミュニケーションズさん他プロフェッショナルな制作者のお力を借りて、今のような立派な冊子を出せるようになりました。

佐藤:『RIETI Highlight』の編集方針についてお聞かせ願えますでしょうか。

佐分利様:『RIETI Highlight』は、わたしたちの研究成果をいかに多くの方に知っていただけるかを考えて制作しています。政策とは社会の病気を治す薬であり、わたしたちの研究成果もその薬の一つです。ですから、その薬を飲んでいただくためにも、政策担当者や多くの方々にどう届けるか、届けた内容をちゃんと理解いただくか、さらにはご納得いただくかが大事だと思っています。わかりやすい文章のロジックや表現、図や表の見せ方を工夫してきましたが、これがいまだに難しいところです。

『RIETI Highlight』のような紙媒体は、このデジタル時代にも大切だと考えています。紙の媒体を好む方はたくさんいますし、取材先の職場でも大勢の方が手に取って感心して回し読んでいただいたり、家族に見せてくださったり、とても喜んでいただけます。人にお会いするときの名刺がわりにもなります。手元におけば、検索不要ですぐ使える究極のモバイルですし、五感で感じるので記憶としてもより鮮明に残る気がします。

編集部とアークコミュニケーションズの連携

佐藤:スタッフの皆さんには、なにかとご苦労が多いと思うのですが、何かそうしたご苦労談などありますでしょうか?

渡邉様:アークコミュニケーションズさんとは英語版の『RIETI Highlight』ではじめてお仕事をさせていただきました。当時、英語版を英文雑誌に近いものにするという話があがり、当方からも様々な要望をあげましたが、『ハーバード・ビジネスレビュー』などのジャーナルをリサーチし、フォントや段組など様々なサンプルをだしてご対応いただきました。そのときのレイアウトが基本となって、現在の英英語版『RIETI Highlight』になっていると思います。

宮澤様:わたしは2010年からRIETIに参加しました。苦労話とは少し違うのですが、その頃の発行号と、今新しく発行された号を見比べると、良い意味でアークコミュニケーションズさんのお仕事には一貫した雰囲気やテイストがあると感じます。過去に他の制作会社さんにもお手伝いいただいているのですが、アークさん制作の時期は、安定して「アーク製」を感じさせるものがハッキリ出ていますね。

苦労といえば、表紙のアイデアや、その時話題になった、あるいは先々話題になるであろうホットな記事を盛り込むことを考えると、どうしてもスケジュールが後ろに押しがちになります。そうしたところのスケジュール調整など舵取りをアークさんからこまめにリマインドいただいたり、ある意味上手に手綱を取っていただいたりすることで、毎回、結果的にすごく良いものができていると感じています。

豊田様:わたしが担当している英文の広報誌は、年に1度の発行で、1年間のRIETIの活動を紹介するものです。そうしたなか、少しでもフレッシュな情報を入れていこうと思うと、スケジュールがどうしてもタイトになってしまいます。また、日本語の原稿を英語に訳して載せるので、ページに収まらなかったり、表を無理やり入れたりするような時に、いつも担当の小川さんが「大丈夫ですよ」とおっしゃって、デザインで解決してくださったりすることが多くて、大変ありがたく思っています。この小川さんの「大丈夫ですよ」という言葉を癒やしに毎号作成しています(笑)。本当にいつも感謝しています。

目に残る表紙とそれを作ることのできる喜び

矢野様:特に20周年号(Vol. 85)の表紙の評判が大変良くて、読者や関係者の皆さんから「素晴らしい」というお声をいただいています。確かに目に残る表紙ですよね。そういうことまで考えて作ってくれたのだなと感じています。ありがとうございます。

評判が良いのはとても嬉しいです。20周年記念号はサブタイトルが「不確実な時代の羅針盤...」でしたので、羅針盤というわかりやすいモチーフがデザインしやすかったです。表紙案は最初にご提示したものがそのまま通りました。

小川:グローバルな時代の羅針盤だと「コンパス+海や空の背景」と誰にでもわかるパターンになりやすく、それでは面白みや特別感がないので、「不確実な時代」をデジタル時代のブロックノイズ的なものと捉えて、それを背景にしたことがポイントでしょうか。実は他の案が選ばれるだろうと予想していたのですが、予想が外れるのも楽しみの一つです(笑)。

佐藤:制作作業で一番重くもあり楽しみでもあるのは、やはり表紙の制作ですね。毎号、特集のテーマや原稿を軽く読ませていただきながらデザインコンセプトを膨らませていくのですが、デザインが難しいテーマの時もあります。たとえば、Vol. 86の「シン・アジア アジアの世紀と新たな国際経済秩序」は、最初は「シン・ゴジラ?」くらいしか思い浮かばず(笑)、どうしようか悩みました。結局、「経済」という共通の言葉をアジア各国語で表現することで、アジアやグローバルの多様性と秩序を表現することにしました。これは弊社が翻訳会社だったからでてきた発想ですね(笑)。毎号、テーマをいただくたびに嬉しくもあり、やるべきことも満載で、なかなかスリリングな感じで進めており、それをすごく楽しみにさせていただいています。

大里:個人的には、制作によってわたしたちの愛を伝えたいと思っています。わたし自身には、研究を通して世の中は良くなっていくという考えがあり、研究に想い入れがあります。ですから、表にはなかなか出にくい研究を一般の人にどう伝えていくのかということに対して、創意工夫を凝らしています。RIETIさんがなさっている研究を、わたしたちなりに少しでも多くの人に伝え、それによって世の中が変わっていくことのお手伝いができたら、非常に嬉しく思います。

矢野様:今日はとてもいい機会をいただき、いろいろと勉強させていただきました。うちのスタッフがどういう仕事を、どう苦労しながらやっているかという話を聞く機会になりました。本当にありがとうございます。「研究が大事」と言ってくださったのは、本当に心強い限りです。わたしたちのような組織は、そう感じてくださっている方々に支えられていくのだと思いますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

大里:今日は貴重なお時間をありがとうございました。今後ともうまくご協力させていただければと思っています。

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