変貌するTBSグループが統合報告書に注力する理由
約70年前にラジオ局として誕生したTBSは今、その姿を大きく変えようとしています。「放送局からコンテンツグループへ」と変貌する姿を克明に記録し、価値創造ストーリーの開示を担う統合報告書。TBSグループは統合報告書に早くから着目し、放送業界では先陣を切って2021年に第一号を発行しました。同時に英語版にも取り組み、国内だけではなくグローバルなステークホルダーへの情報開示を進めています。第一号発行から統合報告書編集の責任者として携わり、2024年版の第四号でも編集長を務める、同社サステナビリティ創造センターの赤阪徳浩様に、放送・コンテンツ業界における統合報告書の意義や発行までの苦労、今後の展開などについて聞きました。
左より大里、赤阪徳浩様、大西、馬場
- プロフィール
- 赤阪 徳浩 TBSホールディングス 「TBSグループ統合報告書2024」編集長
- 大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役
- 馬場 浩昭 株式会社アークコミュニケーションズ 翻訳事業部長
- 大西 由莉 株式会社アークコミュニケーションズ 翻訳プロジェクトマネージャー
「放送局」を超え、「コンテンツグループ」へと変革を進める
大里:TBSといえば「ドラマのTBS」というフレーズがすぐに思いつくくらい、放送事業のイメージがあります。そのTBSグループがいま大きく変わろうとしているとお聞きしました。TBSで現在、何が起こっているのか、まずは全体的な観点からお聞かせ願えますでしょうか。
赤阪様:TBSグループはいま、「トランスフォームの真っ最中」です。1951年にラジオ局として産声を上げ、4年後にテレビ本放送を開始して70年あまりが経ちましたが、長期ビジョン「TBSグループVISION2030」を策定、「東京を超えろ。放送を超えろ。」をスローガンに、コンテンツグループとして生まれ変わろうとしています。ドラマやバラエティー、報道・情報、その他の放送事業はもちろんのこと、海外配信を前提としたコンテンツサプライ、不動産やライフスタイル、学習塾など各事業にも自社のコンテンツ力をかけ合わせて価値創造と持続的成長を目指しています。
当社のブランドプロミスは、「最高の"時"で、明日の世界をつくる。」です。 最高の"時"とは、世界の人々にわたしたちのコンテンツやサービスに触れていただくことでよき時が積み重なり、それによって明日の世界に貢献したいという願いであり、約束です。グループには現在およそ8000人の従業員がいますが、その全員が、放送で培ってきたコンテンツ力を基礎としながらも、放送という枠組みを超えてコンテンツグループに生まれ変わろうと意識変革をしている最中、それが2024年現在の姿だと思っています。
さらに当社は有限希少の国民の電波をお預かりする放送局としての「社会的使命」を負っています。今年元日の能登半島地震の際の報道では、発生後9時間に及び特別番組を放送し続けましたが、災害その他の局面で、国民の生命・暮らしを守るための情報を伝え続ける義務があることをしっかりと自覚し、「情報ライフライン」としての機能も果たすべく日々備えています。こうした社会的使命は、国内に限らず海外の戦争・紛争なども積極的に伝え、公正な社会・世界を維持するために情報・コンテンツで貢献しようともしています。
存在意義を知っていただくために選択した「統合報告書」の発行
大里:放送業界ではかなり早い時期に統合報告書を発行されたとお聞きしています。放送局として積極的に統合報告書作りに取り組んだ理由は何だったのでしょうか。
赤阪様:元々は、当社の財務戦略責任者(当時の代表取締役)が、「投資家・株主の皆様とコミュニケーションを取る上で統合報告書が必須」と提言したところからプロジェクトがスタートしました。対話ツールとして体系的・具体的かつ統合的にグループに情報を記載した報告書がないと、当社の価値や価値向上のための取り組みが伝わりにくいと考えたのです。投資家・株主の皆様のみならず、すべてのステークホルダーに向けて、TBSグループの存在意義を知っていただきたいという望みもあったといいます。
大里:同じ業界の中で前例が乏しい中、ゼロから1を生み出すのは大変なご苦労だったと思うのですが、どのようにして発行に至ったのでしょうか。
赤阪様:私は、入社2年目から長年報道局に在籍し、主にニュース・ドキュメンタリー番組を制作してきました、そこでの経験が活きた気がします。報道は、取材を通じて視聴者に情報を伝える仕事なので、常々「観察と分析と表現の三つが大事」と肝に銘じていましたし、後輩たちにもそう伝えていました。観察がしっかりしていなければ事象を把握できません。分析がしっかりしていなければ体系的な理解ができません。そして、事象を偏り無く適切に伝えるためには表現を磨く必要がある。この三つの作業「観察・分析・表現」はどの一つも欠くわけにいきません。
TBSの統合報告書を編集せよと言われたのは、私が財務戦略部というセクションに異動して間もなくの頃です。報道の経験はあるものの、財務スペシャリストとは口が裂けても自称できない、しかも統合報告書という言葉も初めて聞いたに等しい私としては、そのミッションにかなり戸惑ったというのが本当のところです。しかし考えてみれば、統合報告書といえども「観察と分析と表現」で作れるのでは?そう思ったとき、仲間と共に編集作業に取り組む道筋が見えた気がしました。会社の競争優位性や知っていただきたいことを、すべてのステークホルダーに理解していただくために、自社を「取材対象」にして、あたかも特番を制作するように取り組んでみようと。当初、かなりの苦労が伴ったことは否めませんが、試行錯誤の末、2021年にようやく第一号を発行できました。
大里:会社の経営実態を報告する目的だけならば、財務報告関連のドキュメントでも事足りるという考え方もあるかと思います。なぜ、苦労して統合報告書を作られたのでしょうか。
赤阪様:個人的な理解なので完全に正しいか自信はないのですが、会社を人に例えれば、決算報告などの財務関連情報"のみ"の開示は、その人の銀行残高と家計簿だけを公開するようなものではないでしょうか。では、仮にその人を信用して、お金を渡して稼いでもらおうか、という場合、通帳と家計簿で十分でしょうか?その人の"人となり"は?性格は?どんな暮らしをしてるの?健康状態は?と、知りたい情報は多岐にわたります。会社も同じことではないかと思います。投資の前提となる情報を、財務・非財務両面で過不足なく、しかも統合的に記述する統合報告書の重要性は増してきていると考えています。
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