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日本国内でも、ビジネスパーソンから一般の人まで、海外の人とコミュニケーションをとる(とらざるを得なくなる)機会が急速に拡大しています。しかし、そうした場面が増えるほど、コミュニケーショントラブルも増えているのが現状です。その原因は、実は言葉よりもむしろ相手の文化を理解していないこと。では、どうやって相手の文化に応じてコミュニケーションの仕方を変えていけば良いのでしょうか。その解が、文化の多様性と組織文化の世界的大家であるヘールト・ホフステード博士がつくった「(国民文化の)6次元モデル」のなかにあります。
宮森千嘉子さんは、そのホフステードモデルの最大の理解者にして、博士が認定した数少ないファシリテーターとして、異文化マネージメントの世界で活躍されています。2019年の春には、『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』*を上梓されました。
今回のインタビューでは、その宮森さんに、ホフステードモデルとの出会いやその使い方などについてお聞きしました。
*:『経営戦略としての異文化適応力 ホフステードの6次元モデル実践的活用法』(宮森千嘉子、宮林隆吉著、日本能率協会マネジメントセンター、2019年)
宮森千嘉子様
大里:外国人材の活用がますます重要になっているなか、宮森さんに一番お聞きしたかったのは、ホフステードモデルとの出会いについてです。なぜ、広報のプロの宮森さんがホフステードモデルのエヴァンジェリストになったのか、このモデルにかけるパッションはどこから湧いてくるのか、などをお聞きしたいと思っています。
宮森様:英国のビジネススクールでMBAを取得したのち、当時勤めていた米国企業のイギリス拠点でしばらく働き、その間にアングロサクソン的なビジネスの仕方を徹底的に植え付けられました。2年目から、東南アジアや東ヨーロッパにおけるEメールマーケティングプロジェクトの担当になり、たびたびこれらの地域を訪れるようになりました。そうしたところ、同じ米国系の会社で働いている仲間なのに、今度は慣れ親しんだアングロサクソン流の考え方がまったく通用しないことがわかり、当時、「これはいったいなんなんだろうか?」とすごく悩んだことがあります。そんな不思議な思いを抱いたまま、日本に帰ることになりました。
大里:それは大変でした。日本ではどのようなお仕事を?
宮森様:日本支社の広報部門に入ったのですが、そこでアングロサクソン流の数値ベースのマネージメントを実行するつもりでした。広報なので、どの媒体にどのくらいの頻度で自社情報が掲載され、どのようなテーマを選べば何点に評価されるのかというシステムを導入しようとしたのです。そうしたら、ここでも周囲から怪訝な顔をされました。また、当時は毎日のように様々なビジネス部門からプレスリリースを出していたので、「数を絞って、効率的な情報提供をしましょう」と言ったところ、追い打ちをかけるように、総スカン(笑)を喰らいました。
大里:それはずいぶんと悩まれたのではないですか?
宮森様:はい、その通りです。その時、「なんでこの人たちはこうしたやり方が嫌なのか」という理由がわかりませんでした。「広報がコストセンターだから、数値で評価されるのは嫌なのかな」とか、いろいろ考えました。自分は正しいことをやっているはずなのに、相手は正しいと認めてくれないのです。そんな悩みを抱えながら、夫の転勤に伴い、スペインのバルセロナに移住することになりました。そこでホフステード先生の6次元モデルに出会ったのです。
大里:いよいよ現在のお仕事に通じるお話が出てきましたね。ホフステードモデルは、何か宮森さんに影響を与えましたか?
宮森様:外資系で広報をしていたので組織文化の重要性はよく理解していましたが、国の文化もちゃんと勉強しなければいけないと思うようになりました。実際、各国の文化について勉強をしていくと、その昔、自分が苦しんでいたことがスルスルと解けていったので、「こういうことを知っていたなら、わたしはあれほど失敗しないで済んだ」と反省することしきりでした。これからは、わたしみたいな普通の人が日本の外で生きていくケースも増えるし、日本にやってくる外国人も増えるだろうから、こうした考え方を一つのツールとして持つべきだと強く思うようになりました。
大里:ホフステードモデルとは、簡単に言うとどういったモデルなのでしょうか?
宮森様:正式には「国民文化の6次元モデル」と言って、国の相対的な文化の違いを次元ごとに0から100までの間で数値化したモデルです。ホフステード先生は、以下のような人間社会にある普遍的な6つの課題に注目して、その度合いを数値化し、文化の違いを誰でも客観的に理解できるようにしました。
1. 権力との関係「権力格差(小さい⇔大きい)」
2. 個人と集団の関係「集団主義⇔個人主義」
3. 男性・女性に期待される役割の違いと動機づけ要因「女性性(生活の質)⇔男性性(達成)」
4. 知らないこと、曖昧なことへの対応「不確実性の回避(低い⇔高い)」
5. 将来への考え方「短期志向⇔長期志向」
6. 人生の楽しみ方「抑制的⇔充足的」
ホフステードモデルは、米IBM社の50カ国以上における11万6千人を対象とした従業員意識調査から始まりました。調査のあとにホフステード先生が従業員の意識や行動の違いを比較してみると、職種や性別・年齢などの属性ではなく、国別の文化の違いによって起こされる問題が一番大きいことを発見したのです。そしてその後、先生がスイスのIMEDE(現在のIMD)などで、同じ質問を用いて追調査を実施し、何年かかけて作り上げたのがこのモデルです。ホフステード先生は、2008年5月5日付のウォール・ストリート・ジャーナルでは、野中郁次郎先生やミンツバーグ先生、ピーター・センゲらとともに、経営に最も影響力を持つ20名の思想家の1人に選ばれています。
先生は機械工学、社会心理学の博士号を持ち、マーストリヒト大学などで組織人類学や国際経営学の教授を歴任。幅広くかつ鳥瞰的視点で90歳の今も研究を怠らない。そういう先生のアカデミックな姿勢に、わたしはとても感動したものです。
大里:当時の宮森さんのお考えに、ホフステードモデルがピタリとはまったのですね。
宮森様:はい。異文化というものは、自分の経験で語ることは簡単なのですが、それほど気軽に語れるものではないということをうすうす感じていました。そのためには、アカデミックな根拠がほしい。先生の研究に裏打ちされた理論は、それに応えるものだと確信しました。それでも、先生は「このモデルですべては読み解けない」と常におっしゃっています。そういう学者としての謙虚な姿勢にもすごく共感したのです。
大里:日本でホフステードモデルをうまく普及させ、有効に利用してもらうために、どのようなことに気をつけてご説明されているのでしょうか?
宮森様:次のような説明をすると、納得していただけるケースが多い気がします。「日本人の文化を、他の国と比較して相対的に説明できますか?それを客観的に可能にするのがホフステードモデルなんです。」
6次元のなかで「権力格差」と「集団主義/個人主義」のスコアを見ると、日本は世界のなかでちょうど真ん中の位置にあります。日本人に「日本は集団主義だと思いますか?」と聞くと、ほぼ99%の方が「そう思う」と答えますが、実はそうでもないのです。一方、「女性性/男性性」のスコアで見ると男性性が非常に高く(競争社会のなかで達成・成功・地位の獲得が動機づけになる)、「不確実性の回避」も高く、不確実・曖昧・知らないことを恐れる。そんな国って世界のなかでもほかにはないのです。そうした分析を皆さんにお見せすると、「そうなんだ!」と驚きをもって聞いてくれます。これを"掴み"にして会話に入ると、皆さんの興味を惹きつけることができるようです。
大里:カテゴライズによってステレオタイプ化してしまう危険性もありますね。ホフステードモデルがアカデミックな手法に基づいていたとしても、国民の個人差は当然あるので、わたしたちとしてはホフステードモデルとどのような"付き合い方"をしていったらいいのでしょうか?
宮森様:ホフステードモデルを使っていろいろな軸(次元)の組み合わせができるようになると、さまざまな文化の人と対峙したときに、「なぜこれが起こっているのか」ということについてモデルを通して考えることができるようになります。さらに「これは国の文化なのか、組織の文化なのか、それとも個人の問題なのか」と思考を深めることもできます。そうやって糸口が見えると、問題があったときの解決方法がわかります。ビジネスだけでなく、日々起こっているさまざまなニュースなども、モデルを使うとその本質がよく見えることがあります。
大里:せっかくこのホフステードモデルを勉強したので、社内でうまくこれを使えないかと考えています。社内で議論をしていると西洋/東洋の違いではなく、実はフランス人と日本人の間や、アメリカ人と中国人の間のほうがプロセスが近いと思う時がよくあります。フランス人と日本人は、周りの情報を取り込みながらプロセスについてたくさん話し合って結論を出しますが、アメリカ人と中国人は結論から話が始まり、わたしたち日本人と議論がかみ合わない時がよくあります。
宮森様:その原因となるホフステードモデルの次元はなんだと思いますか?
大里:「権力格差」? 「集団主義/個人主義」? なんでしょうか?
宮森様:「不確実性の回避」だと思います。
大里:なるほど。
宮森様:フランスや日本は不確実性を回避したいという傾向が相当高い国なので、決断する前に情報を必要とします。そして、反論する場合にはあまり間違えたくない。そこで、いろんな情報のなかから結論を出すというやり方をします。一方でアメリカや中国はそうした「不確実性の回避」の傾向がやや低いので、「とりあえずやってみよう。ダメだったらほかの方法を探ってみよう」というかたちになりやすいのです。
大里:そうなんですね。確かにそれは納得できる説明です。弊社のような多国籍のメンバーから成る会社では有用な分析だと思います。
宮森様:多国籍のチームで働く時は、メンバーの間にどういう違いがあるのかを互いに客観的に話すことがすごく大事です。「あなたはフランス人だから」と言うのではなく、「『不確実性の回避』の強さが出たけど、今の段階では助けは不要だから......」のように、相手の国籍で判断するのではなく、ニュートラルな言語としてモデルを活用するのです。
例えば、海外にいる日本の会社の駐在員が、本社からの指示ですごく細かいデータを要求されたときに、現地の人(例えばアメリカ人)から「なんでそんな細かいものを今出さなければいけないんだ」と言われるケースってありがちですよね。そうしたら、「これは日本人が『不確実性の回避』が高いから、こうなっちゃうんだよね」みたいにちゃんと説明できるのが良いと思うのです。単純に「日本人だから」と言っても、アメリカ人はなかなか納得してくれません。
大里:日本人はその昔、ごく一部の人だけがグローバルな仕事をしていたと思うのですが、現在は、在日外国人や訪日外国人が大幅に増えたし、会社が買収されていきなり外資系の会社になってしまったりすることもあります。そんな、突然、異文化に接さざるを得なくなった人に向けて、なにかメッセージやアドバイスはありますか?
宮森様:「自分が正しい」と信じ込んでいることが、実は必ずしも正しくないということ。次に、文化の違いは「良い/悪い」ではなくて「ただ違うだけ」ということ。3つ目に、自分の感情も含めて、今起きていることを突き放して客観視出来るかどうかが ポイントかと考えています。そして、そういう意識を持つためには、大前提として「生まれた国が違えば、プログラミングされていることやOSも違う」ということに気づく必要があります。国民文化は無意識のうちに私達の中に埋め込まれているので、異なる文化と接して初めて気づくもの。その違いを理解するために、ホフステードモデルはとても役に立つのです。
ところで、御社にとって異文化マネージメントの悩みは、社内コミュニケーションだけではなく、提供されている翻訳サービスのなかにもあるのではないですか?
大里:はい、それはもう、しょっちゅう(笑)。親しみのない概念などは、翻訳時に補足を付け加えることでなんとかなります。例えば、ホフステードモデルで言う「女性性・男性性」という言葉です。その言葉で表したい本質を、例えば「生活の質と達成欲」と言ったように説明すれば、読み手の理解を促せます。しかし、弊社は「メッセージ性の強い文章」を訳すことが多いので、文章中に文化に根付いたくだりがあると、翻訳に大変苦心します。
宮森様:ありそうな話ですね。文化に根ざす本質的な意味を正確に翻訳することは本当に難しそう。
大里:例えば、とある会社の社長メッセージを英訳するときに「人間万事塞翁が馬」という言葉が引用されていたとします。翻訳した結果、その意味するところを「状況を変えることに消極的な社長」のように勘違いされないために、大変気を付ける必要があります。
宮森様:ホフステードモデルで言えば、「日本人は目の前のことに一喜一憂しないで、長期を見る」ということでしょうか。さすが、日本人の男性性の強さ=高い完成度を追求する姿勢と、ネイティブが微に入り細に入り翻訳品質を高めていくスキルを組み合わせた「多国籍企業」のアークさんならではの仕事ぶりですね。
大里:最後にお褒めまでいただき、本当に感謝しています。本日は興味深いお話をうかがえて、大変楽しかったです。ありがとうございました。
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