3Dエクスペリエンス戦略をきっかけに、世の半歩先行くオウンドメディアを発行
世界中のメーカーが製品設計に利用する3次元(3D)CAD(Computer-Aided Design)ソフトウェア「CATIA」を開発したフランスのダッソー・システムズ。3D設計の思想をいち早く世の中に普及させ、その後も「DMU(デジタルモックアップ)」や「PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)」といった概念で、設計から製造の世界までメーカー向けソフトウェア技術をリードしてきました。2012年には「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を発表し、同時にその考えを普及させるために社外報を「COMPASSマガジン」として大幅リニューアル。企業のトレンドウォッチャーやディシジョンメーカーに向けて、世の半歩先を行く情報を提供するこの媒体にアークコミュニケーションズはかかわってきました。ダッソー・システムズで翻訳・通訳と広報にかかわるそれぞれのご担当者に社外報や社内翻訳・通訳の実際についてお聞きしました。
左より 馬場、宮城、細江、大里、加上様、松田様、平田様、佐藤様
- プロフィール
- 加上 菊 ダッソー・システムズ株式会社 通訳・翻訳サービス マネージャー
- 松田 実智子 ダッソー・システムズ株式会社 通訳・翻訳サービス
- 平田 ひとみ ダッソー・システムズ株式会社 通訳・翻訳サービス
- 佐藤 有喜子 ダッソー・システムズ株式会社 PR & コミュニケーション シニア・マネージャー
- 大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役
- 馬場 浩昭 株式会社アークコミュニケーションズ 翻訳事業部 事業部長
- 細江 和夫 株式会社アークコミュニケーションズ 翻訳事業部 チーフプロジェクトマネージャー
- 宮城 任子 株式会社アークコミュニケーションズ 翻訳事業部 通訳サービス担当
「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を標榜
大里:ダッソー・システムズといえば、国際的に実績あるソフトウェア企業として有名ですが、まずは簡単に会社のご紹介をお願いできますでしょうか。
加上様:ダッソー・システムズは、「サイエンティフィックカンパニー」――科学を基盤とする会社です。現在の従業員数は約1万7000人ですが、積極的にM&Aを展開しているので、年々この数は増加しています。拠点は全世界179カ所にあり、お客さまは25万社、ユーザー数は2500万人に達します。株式の過半数を創業家と持株会社であるグループ・ダッソーが保有しているため、安定して10年~20年先まで見据えた経営が可能です。現在は11業界を販売ターゲットとしており、進歩的なお客さまが多いのが特徴です。
大里:わたしが日本アイ・ビー・エムに新卒で入社した時に、御社の製品を取り扱っている部署に配属されました。まだ2次元(2D)が主流だったCADに3次元(3D)設計手法を取り入れた❝画期的な製品❞という印象が強くありました。
加上様:そうなんですか! ダッソー・システムズの設立は1981年で、当時から3Dを前面に押し出して製品を開発していたことは、今から考えるとすごく斬新なことだったと思います。母体は航空機を製造するダッソー・アビエーションという会社で、そのIT部門がスピンオフして作られた会社です。航空機はその外観形状が流線型をベースにしているので、2次元では表現しきれず、設計の段階から3次元で表現する必要があったために「3Dの会社」となりました。
大里:その後も次々と新しいコンセプトを取り入れ、ものづくりの考え方を革新してこられましたね。
加上様:はい。1989年には「デジタルモックアップ」を提唱し、コンピューター上での試作モデルの作成や検証を軌道に乗せました。当時、ボーイングが開発していた777型機、通称「トリプルセブン」は、現在の新しい商用航空機のほぼすべてがそうであるように、ダッソー・システムズのテクノロジーを使用して全面的に設計された最初の商用航空機でした。その次の段階では、「PLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)」を推進しています。製品は設計だけでは作れません。わたしたちは、製造も含めてプロダクトライフサイクル全般で3Dモデルを活用できることに気づいたのです。例えば2002年には、IBMとダッソー・システムズはトヨタ自動車と、車両開発プロセス全体を支援するPLMソリューションにおける協業に合意しました。
大里:ビッグプロジェクトですね。
加上様:そして今、わたしたちが「第4世代」として標榜しているのが「3DEXPERIENCEプラットフォーム」です。作った製品を使ってどんなことができるのか、そこからお客さまはどんな体験を得られるのか、ビジネスにはますます「エクスペリエンス」の視点が重要になっています。そこでは、もはやCADだけではなく、データ管理やシミュレーション、データ分析など、非常に幅広い分野の技術が必要になってきます。
半歩先を行く経営者必読のトレンドを凝縮
馬場:御社の社外報「COMPASSマガジン」は、いつもたいへん興味深く読ませていただいています。こちらの方もぜひご紹介願います。
佐藤様:COMPASSマガジンは2012年の秋に創刊しました。そこから、ほぼ1年に2回刊行し続けています。当初は紙による雑誌でしたが、いまは英語版だけが紙媒体として残り、それ以外はすべてウェブマガジンに移行しました。現在は英語版のほか、日本語版と韓国語版、中国語版を翻訳して作っています。なぜ、こういうメディアを弊社が始めたかというと、2012年に「3DEXPERIENCEプラットフォーム」を世に出すことで、ビジネスの在り方を変えていく必要性を啓蒙しようと考えたからです。
馬場:そうですか。コンセプトを提唱していくためにメディアを改革したのですね。
佐藤様:はい、そうなんです。それまでは、CADやシミュレーションを扱うユーザーそれぞれが個別にその技術に通じていれば十分業務が回りました。しかしここに来て、クルマづくり一つ例にとっても、形状はもちろん、車体や部品の材料、車内と走行音の関係、車内の温度や湿度管理、スマートオブジェクトの動作など、複合的な組み合わせの中でユーザー体験を作る方向にものづくりが急速に変わっています。そこで、ビジネスを統括される方や、世の中のトレンドを作り出す研究者などにも、わたしたちのテクノロジーを知ってもらう必要が出てきたのです。
馬場:実際にはどのように変えていかれたのでしょうか?
佐藤様:以前は非常に専門的・技術的な論考を中心とする社外報を出していましたが、半歩くらい先を行った、これから経営者が見ていかなければいけないトレンドを凝縮した定期刊行物を作ろうと考えたのです。これが、COMPASSの始まりでした。おかげさまで、IABC(インターナショナルアソシエーションオブビジネスコミュニケーターズ)という協会の賞もいただき、新しい形のオウンドメディアとして世の中にも認めていただけました。
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