対談記事

2015年1月

アクセンチュア株式会社のチーフ・マーケティング・イノベーター加治慶光、官民を経験して見えてくる日本

アクセンチュア株式会社チーフ・マーケティング・イノベーター(CMI)に、2014年2月より新しく着任された加治慶光様。富士銀行、広告会社を経て米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院MBA修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車など名だたる企業でご活躍され、日産自動車在職中に2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会のエグゼクティブ・ディレクターとして出向。その後、内閣官房官邸国際広報室参事官と、日系と外資系、官と民、日本と世界を結ぶ数多くのキャリアを積み重ねられました。現在は、文科省の参与、ケロッグ経営大学院日本同窓会会長でもあります。
現在着任されたCMIとしてのお話から、官民を経験された加治様の思いまでを伺いしました。

プロフィール
加治 慶光様 アクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベーター
大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ代表取締役

内閣官房官邸国際広報室参事官から民間企業へ。アクセンチュアを選んだ理由とは。

大里:加治さんは外資系企業と日本企業、官と民と幅広くキャリアを重ねてこられたわけですが、今回、アクセンチュアさんを選ばれたのはなぜですか。

加治様:2011年に総理大臣官邸の国際広報室参事官に就任したのですが、その年の3月に東日本大震災が起こりました。この時、優秀な戦略コンサルティング会社の方とご一緒する機会があったのですが、高い公共性の観点から官僚の理論で仕事を組み立てる官僚と、客観的なマーケットな視点からロジカルに人を説得できるコンサルタントは、互いが補完し合うよい関係となっているな、と感じました。コンサルティング会社という立場から世界や日本をより良くするために働くのもいいのではないか、と思ったのはこの時だったかもしれません。

チーフ・マーケティング・イノベーターの肩書きに込めた加治さんの思いとは。

大里:現在の肩書きのチーフ・マーケティング・イノベーター(CMI)ですが、普通は、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)ですよね。これは、加治さんが作られた言葉じゃないか、って思っているんですが(笑)?

加治様:はい、聞き慣れない肩書ですよね。ご推察の通り造語です。でも、残念ながら私の造語ではありません(笑)。今回の私の役割は、アクセンチュアのブランド価値を日本でさらに高めていくことです。その命を受けるにあたって、技術革新を超えて顧客や市場からの視点でイノベーションが起こるべきという考えのもと、アクセンチュアの経営陣と相談しました。そして、「役職名を単にCMOとするのではなく、マーケティングとイノベーションという言葉を組み合わせてみてはどうだろうか」という議論を経て決めました。

大里:イノベーションというと、日本では技術革新と受け取られると思うのですが、ここではちょっと違いますよね。

加治様:そうですね。これは、1956年の経済白書で、イノベーションに対する訳語として「技術革新」という言葉が使われたことに起因していると言われます。もちろん、本来イノベーションとは技術革新だけのことではありません。例えばiPodやiPhoneを購入し、所有し、体験すれば、技術的な革新だけがイノベーションではないということがよくわかります。スティーブ・ジョブズが、こんな製品がほしい、こんな暮らしができたらいいだろうな、という思いを既存の複数の技術を組み合わせて形にしたものです。マーケティングは企業の基本機能と言われますが、変化の激しい今の時代においては、従来のマーケティングにイノベーションを組み合わせ、マーケットに付加価値を生み出し続けることが重要です。CMIというのはそのことを意識しつつ、自分自身を戒めるためもつけられた肩書きです。

大里:加治さんはケロッグ経営学院の同窓会でも、従来卒業生に対して行っていた講演をアカデミーヒルズとコラボレーションし、外部に開いて講演の付加価値を増やして下さるなど、身近なところで次々マーケティングイノベーションを実施して下さっているので、ぴったりな肩書きですね。

アクセンチュアのコンサルティング会社としての差別化とは

大里:実際にアクセンチュアさんで働いてみて、どのように感じていらっしゃいますか。

加治様:アクセンチュアに入社を決めたとき、「なぜアクセンチュアに興味を持ったのか」と質問されました。そのとき私は、「アクセンチュアは、人間に例えると頭脳と身体とその身体を動かす神経系を全部もっている唯一のコンサルティング会社で、それは自分にとって一番フィットするから」と答えたんです。アクセンチュアの一員となって、まさにそういう会社だな、と実感しています。

大里:たしかに、戦略策定からシステム構築、さらにその戦略を実行するところまでできるところが、アクセンチュアさんが他のコンサルティング会社と大きく違うところですよね。

加治様:例えば、お客様とジョイントベンチャーなどの会社を作って、デジタル化時代の複雑な課題を解決したり、全く新しいビジネス価値を創造したりするような取り組みも行っています。よりダイナミックで社会的インパクトの大きい仕事ができるんではないかと思っています。アクセンチュアは、戦略、デジタル、テクノロジー、オペレーションズという4つのサービスを提供しています。この4つを高いレベルで提供し、統合しているのは、世界でアクセンチュアだけと言っていいでしょう。

大里:世界56か国で事業を展開している御社で、日本が成長市場に位置付けられている、とお聞きし、大変嬉しく思いました。

加治様:アクセンチュアは、デジタルとグローバルを最重要テーマとして、あらゆる事業に取り組んでいます。急速に進展しているデジタル化は、私たちが身を置くビジネスの世界に大きな影響を及ぼし始めており、市場競争環境はすでに大きく変化しはじめています。また、グローバル化という意味では、2020年にオリンピック・パラリンピック競技大会の開催も決まり、アウトバウンドだけでなく、インバウンドの重要性もさらに高まってくると思います。こうしたデジタル化やグローバル化という観点からすると、日本はまだ成熟しておらず、成長の余地が残されているということです。

大里:グローバル化という意味ではインバウンドとアウトバウンド両方が重要になってきているんですね。加治さんご自身のマーケティングのお仕事ではいかがですか?

加治様:そうですね。グローバル企業の日本におけるCMIとして、日本市場に対するマーケティング活動はもちろんのことですが、アクセンチュアのグローバルに対して、日本の魅力や優位性を説明するのも重要な仕事の一つです。これをROI、KPIなどのグローバル共通指標を使い、グローバル共有言語である英語で説明する必要があります。日本企業がグローバル化していくために、世界のプロトコルにのっとって日本の魅力をアピールしていかなければならない状況に直面していますが、アクセンチュアというグローバル企業においてもそれを実践し、日本の価値向上に貢献したいと思います。

大里:ブランドコンサルティング会社のインターブランドによる世界のブランドランキングでは、アクセンチュアさんは44位と伺いました。アップルやグーグルやコカ・コーラなどのB2C企業がほとんど上位を占める中、B2B企業としてはかなりの高い位置を占めていらっしゃいますね。

加治様:アクセンチュアのブランド力は、もちろん一部の経営層や、我々のようなマーケティング組織だけで構築されるものではありません。お客様と直接仕事をしているコンサルタント一人ひとりの多様なスキルや働き方、お客様である企業や官公庁の方々に提供するビジネス価値やそこに至るまでのプロセス、そしてアクセンチュアが果たしている社会的責任など、あらゆるステークホルダーとの接点がグローバル規模で首尾一貫していること、これらすべてが重なり合ってアクセンチュアの企業ブランド力を築いているのです。ですから、マーケティングの役割は、こうした仕組みを構築し、管理し、あらゆるステークホルダーにコミュニケーションすることで、認知や行動を今よりもよりよい方向に変革させることなのです。そして、変化の激しい時代においても価値あるブランドとして認知され続けることが重要であり、そのために自らが率先して進化していくことがマーケティングに求められるイノベーションだと思います。
他方、アクセンチュアは確かにB2Bの会社ですが、日本での成長を加速させるためにも、多くの優秀な人材がグローバルに活躍するためのプラットフォームとして機能したいとも考えています。そのため、より多くの方にアクセンチュアに関心を持ってもらえるよう、さまざまな領域でB2C的なブランディングも必要だと考えます。日本での認知度は世界での認知度に比べて低く、まだまだ成長余力があり、これはやりがいのあるところですね。