アクセンチュア株式会社のチーフ・マーケティング・イノベーター加治慶光、官民を経験して見えてくる日本
国境を越えるグローバルな課題を軽やかに解決できる人材育成を支援したい
大里:加治さんは「私たちはどう社会の役に立っていくのかを問い続けなければ」と口癖のようにおっしゃいますね。
加治様:そうですね。わたしは、幸運にもケロッグの教育に出会うことができました。おかげでキャリアの機会が広がって、いろいろな能力を身につけることができました。それを世の中に還元したいと思っているんです。教育を受けることによって人間は変わっていけるということも実感してきましたから。
大里:具体的な分野や方法についてのイメージはありますか。
加治様:いま一番関心のあるのは、教育の分野ですね。例えば、いま人類は気候変動やエネルギーミックスなどの地球規模の問題に直面していますが、現在のシステムは国家が基本単位になっています。このためこうした問題を解決するのに、国境が妨げになることがあるのを、官という立場にいるときに感じました。
大里:確かにそうですね。人類全体の問題なのに、全体で取り組むのは難しいですね。
加治様:そうなんです。でも、生まれたときからインターネットの使える環境で育った若い世代にとって、国境は薄れているかもしれません。今の私たちにとって困難な課題でも、軽やかに解決していけるかもしれません。だからこれからの教育は、私たちが知っていることを教えるのではなく、次の世代の人たちが、新しい力を発揮できるよう支援することだと考えています。
大里:すばらしいアイデアですね。そうすると、多様な人々とのコミュニケーションという問題が出てくると思うんですが。
加治様:おっしゃるとおりです。性別や身長などと同じように「あらゆる違いを個性の延長線上として受けとめることができるか」ということではないかと思うんです。
大里:言葉の問題も大きいですよね。
加治様:はい、大きな課題ですね。日本では、明治時代に鎖国を解いた時、優れた文献を大量に翻訳しているんですね。
大里:だから日本人は、日本語で教育を受けることができるんですね。
加治様:そうです。日本人は英語ができないと言われますが、先人達が欧米の教育を日本語で受けられるように、様々な文献を翻訳してくれたおかげなんですね。
大里:ところで、加治さんにとって、ビジネスにおける翻訳の重要性とは何でしょうか?
加治様:翻訳は、言葉の持つ範囲をどう捉え、意図をどう伝えるかが重要です。例えばComplianceは、一般に法令遵守と訳されていますが、Complianceにはcomply with、つまり何々に寄り添うという概念が含まれているんです。社会的に受け入れられることが、Complianceなんです。だから英語のComplianceと日本語の法令遵守は、意味が異なるのです。
アクセンチュアでのマーケティングの我々の仕事は、概念を売る仕事ですから、概念を理解した正しい翻訳が重要です。それをきちんと計算できるパートナーがいることはとても心強いことです。アークコミュニケーションズは、ハーバードビジネスレビューの翻訳を手がける質の高い翻訳をできるパートナーですから、引き続きお手伝いをお願いします。
大里:ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします。
最後に、加治さんが最近よくお話されている世界における日本の価値というところについてお聞かせいただけますでしょうか。
加治様:最近思うのは、日本のもっている価値、つまり「和をもって尊しとなす」ということが、世界の新しいガバナンス、秩序に役に立つんじゃないかな、と。多様なものを受け入れている今の日本が、ある種人類の未来の姿のヒントを示している、と考えることがあります。この国の編集力とか融合力といわれるノウハウや価値観を世界に伝えることが、われわれが成長できるきっかけになるのではないかな、と。ですから、世界において日本が果たす役割は大きくなっている、と思っています。
大里:これはとても勇気づけられるお話ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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