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今回は、アメリカ建国当時のアメリカ英語に焦点を当てたいと思います。
ところで、方言の違いはどこの国の言葉にもありますね。日本でも、関西の人は「自分たちの話し方は人情深く東京では気取った話し方しかしない」、一方、東京の人は「関西に行くと町中でお笑いをやっているようだ」といった具合に、冗談として語ったり、議論がヒートアップしたりすることがあります。似たようなことはどこの国でもやっているようです。
英語のように一つの言語が複数の国で使われる場合も同じで、それぞれ「自分の方が良い」「向こうの言い方は変だ」という議論が白熱するそうです。アメリカとイギリスも例外ではありません。おそらくカナダやアイルランド、オーストラリア、ニュージーランド、ひいてはシンガポール、フィリピン、インド、ジャマイカ、南アフリカなどの英語圏でもそうでしょう。
言語は、それを使う人々の文化や生活環境によって、必要となる語彙や表現法を数多く生み出します。
イギリスという気候が良くて緑や自然に恵まれた一つの島国に英語が収まっていた時は、そこでの生活に最適化された言語でした。その後、世界の植民地へと広がり、そこからさまざまな要素を吸収し、他言語と比べて比類ない発展を遂げてきたのは、これまでのコラムでもご紹介したとおりです。
ところが、英語がそれまでの植民地とは異なるアメリカという新天地に「移民」というかたちで進出すると、そこからまた新たな進化が始まりました。語彙や表現法だけでなく、発音も少しずつ変わってきます。それが蓄積されて、イギリス英語とアメリカ英語という分岐が際立つようになりました。
アメリカがイギリスから独立したのは18世紀。実際に独立を果たすまでの長い間、主にイギリスからの移民で人口が増え、新たな土地の環境に最適化すべく新語造語が多く誕生しました。
そんなアメリカ生まれの言葉は、イギリス本国では「野蛮な英語(barbarous English)」と揶揄されることもあったそうです。
例:
- colonize (入植する、植民地にする)
- unshakable (揺るぎのない)
- bluff (断崖、絶壁)
- antagonize (反感を買う、敵に回す)
- placate (なだめる、慰める)
しかしアメリカ生まれでも、今ではイギリスを含めて完全に定着した言葉も数知れません。
例:
- lengthy (長々しい)
- calculate (計算する)
- seaboard (海岸地帯、海岸線)
- bookstore (書店)
- presidential (大統領の、総裁の)
旧大陸のイギリス植民地と同様に、ここでも他の言語からの流入は例外なく起こっています(新大陸原住民の言語から入ったもの、アメリカに移民した非英語ネイティブの言語から入ったものなど)。
例:
- wigwam (北米インディアンの小屋)(インディアンの言語から)
- pretzel (プレッツェル)(ドイツ語から)
- spook (幽霊、諜報員) (オランダ語から)
- depot (停車場) (フランス語から)
- canyon (峡谷)(スペイン語から)
こうしてアメリカ英語独自の進化が進み、同時に国力や影響力においてもアメリカが無視できない存在になってくると、イギリスの対抗心に油が注がれ、雑誌『パンチ』(イギリスの風刺漫画雑誌、1841年創刊)には次のような記録まで残っています。
If the pure well of English is to remain undefiled, no Yankee should be allowed henceforth to throw mud into it. (もし汚染のないきれいな英語の井戸があるとすれば、今後はヤンキー(=アメリカ人)たちに泥を投げ込まれないように守らなければならない)
アメリカ独立宣言(1776年)の時代は、それでも両国の英語の違いは今ほど大きくはなく、フレデリック・ノース(英国首相)とジョージ・ワシントン(米国大統領)の会話では、ほぼ同じ言語に聞こえたはずです。しかしレーガンとサッチャー、ひいてはトランプとメイの時代になると、どちらがどの国のリーダーか誰の耳にも明らかなほど特徴が際立つようになりました。
独立戦争(The American Revolution)(1782年)は、アメリカ英語のさらなる発展に向けた節目となりました。国民を「Americans」と呼び、自国の言語を「the American language」と正式に言うようになったのはこの時からです。「国の言語」を持つことが「国民意識」を高めることに力を発揮することを理解した上でのことでした。
のちに米国第3代大統領となるトーマス・ジェファーソンと言えば、独立宣言の起草にかかわった一人。30代の頃はバージニアで弁護士をしていました。モンティチェロ(Monticello)の自宅や書斎で使う机をはじめ、自分専用の望遠鏡まで設計してしまう彼は、言葉が持つ力に惹かれ、造語にも積極的でした。
- belittle (見くびる、けなす)
のように本国イギリスでは嘲笑の対象になってしまった言葉もあるようですが、自国通貨の
- cent(セント)
- dollar(ドル)
に至っては、今では多くの国や地域で採用される言葉となっています。
ジェファーソンは、「米英は土地、気候、文化、法律、宗教、政府などすべてが異なっている。一日も早くイギリスの水準に追いつくためには、熟慮を重ねて新語造語を取り入れながら国語を豊かにし、それに新概念を乗せて国の内外に発信していくことが大切だ」と考えていました。言葉づくりは国づくりの一環と捉えていたのでしょう。
同じく18世紀、ジェファーソンとともにアメリカ独立に貢献したベンジャミン・フランクリンは、政治家、発明家として知られています。十代の頃からフィラデルフィアで印刷業を営んでいた彼は、身の回りのあらゆることに興味をもつ性格で、初めてボランティアによる消防隊を組織したり、アメリカ初の公共図書館を作ったり、フランクリンストーブ(暖炉の暖房効率向上のため前面以外の5面を鉄板で囲ったもの)を考案したことでも有名です。
印刷業に携わっていた彼は、当時、英単語の綴り方の秩序のなさ(chaotic spelling convention)に関心を持つようになり、その改革案を世に示しました。1768年に「A Scheme for a New Alphabet and a Reformed Mode of Spelling」という論文で、発音と綴り字を一致させるには、英語専用の文字を導入するのが早いと訴え、既存のアルファベットを補足する形で「新たな文字」を6つほど考案したことは、あまり知られていません(ご興味のある方は「Franklin's phonetic alphabet」というキーワードでネット検索してみてください)。
結局、それは採用に至りませんでしたが、その後、ノア・ウェブスターをはじめとする辞書編纂家たちに大きな影響を与え、アメリカ式のつづり方が生まれるきっかけになりました(ノア・ウェブスターについては、次回詳しくご紹介する予定です)。
英式 | 米式 | 和訳 |
colour | color | 色 |
theatre | theater | 劇場 |
plough | plow | 耕す |
kerb | curb | 縁石(歩道車道間の) |
tyre | tire | タイヤ |
このように、英語をアメリカ式にし、それを世界に普及させるのだという強い言語ナショナリズムが起きていました。過去にラテン語やフランス語が国際語の地位にあったように、20世紀後半から21世紀に向かってはアメリカ英語をその地位につけるとする考え方です。
一方少数派ではありましたが、「アメリカという新国家は英語の使用をやめ、フランス語、ヘブライ語、ギリシャ語を採用すべきだ」という意見や、「そもそもアメリカは移民国家で、一部では多言語社会でもあったので、英語に加えてドイツ語やフランス語も併用しよう」という意見もあったようです。
しかし、アメリカが誕生した18世紀後半の時点で人口の9割はイギリス系移民だったので、英語を国の言葉とすることは自然な流れであり、ジョン・アダムス(第2代大統領)は新たな言語に変えたり複数言語を国として採用するという考えを退けています。むしろアカデミーを作って英語を保護し、世界にアメリカ英語を普及させていこうとする方針を打ち出しました。今後、アメリカという新しい国の理想を世界に広めるのは英語であり、21世紀に世界で最も使われる言語は英語になることを目指したのです。
次回は、この流れをさらにあと押しすることになる、ノア・ウェブスターの功績などについてご紹介します。
担当:翻訳事業部 伊藤
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