Column

2024年7月

サステナビリティコラム①:サステイナビリティ・コミュニケーションをデザインする

サステイナビリティ~

私が若かりし頃にこの概念は影も形もありませんでした。今や息子は小学生の頃から、持続的社会の構築のために学び考える機会があり、社会全体でこの課題に取り組む熱意が感じられるようになりました。

今回コラムをご担当してくださる西原弘さん。

実は、今から33年前の大学の卒業論文が「廃棄物問題の社会理論」だったそうです。つまり、学生の頃からずっと、環境問題に端を発してサステイナビリティに意識を向けていらっしゃったのです。

「大里さん、僕はずっとこの課題に取り組んでLife Workにしているけど、Rice WorkとLife Workはどちらも大事だよ」という言葉は、今でも心に残っています。

サステイナビリティの歴史を語らせたら右に出る方はいない西原さんに、経緯をひもとき、コミュニケーションデザインの観点からご執筆いただきます。お楽しみに。

アークコミュニケーションズ代表取締役
大里真理子

西原 弘(にしはら ひろし)  プロフィール

プロフィール

有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役
学生時代の1990年以来、「サステイナブル」をライフワークとし、中小企業から上場企業まで、経営計画・事業開発・資金対策・人材育成・情報開示の面からサステイナビリティ経営を支援。サステイナビリティ経営人材養成講座主催。
日々のニュースからSDGs・ESG関連ニュースをピックアップしコメントするデイリーSDGsニュースを、2021年8月1日から毎日投稿中。

略歴

1991年 東京大学文学部社会学科卒業
1991~2002年 株式会社三菱総合研究所 研究員
2002年12月~ 有限会社サステイナブル・デザイン設立 代表取締役
2020年度~ 青山学院大学SDGs/CEパートナーシップ研究所客員研究員

書籍

新版銀行業務検定試験 CBTサステナブル経営サポート対策問題集」(2024年7月29日 新2訂版発行)
経済法令研究会(「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー ベーシック」対応)

第1回 サステイナビリティとESGのルーツ

1. そもそもサステイナブルとは?
1-1. サステイナブルのはじまりは50年以上前

筆者が「サステイナブル・デザイン」の社名で創業したのは2002年。以来、これまでに約1万2000人の方と名刺交換してきました。しかし、残念ながら、ほとんど誰も「サステイナブル」という単語を知らず、理解されない時代が長かったのが事実です。

変わってきたのは2020年頃、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉の認知度が高まってきてからです。名刺交換の際に「SDGsができたのは2015年ですが、当社は2002年の創業時からこの名前です」とお話しすると「そんなに前から?」と驚かれることも少なくありません。

 ただし、サステイナブルの始まりは、もっと以前です。国連を中心に、節目となった出来事をピックアップしてみましょう。

  • ・1972年 国際連合人間環境会議(通称ストックホルム会議)キャッチフレーズ:「かけがえのない地球」(Only One Earth)
  • ・1987年 国連環境と開発に関する委員会(通称ブルントラント委員会)報告「我ら共有の未来」(原題:Our Common Future, From One Earth to One World):持続可能な開発(SD:Sustainable Development)の定義
  • ・1992年 環境と開発に関する国際連合会議(通称地球サミット):「アジェンダ21」
  • ・2000年 国連ミレニアムサミット:国連ミレニアム宣言➡MDGs(ミレニアム開発目標)の設定(~2015年)
  • ・2015年 国連持続可能な開発サミット:「我々の世界を変革する~持続可能な開発のためのアジェンダ2030」(原題:Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development)➡SDGs(持続可能な開発目標)の設定(~2030年)
1-2. SDGsは目標であって、目的ではない

この簡単な年表から、"Only One Earth"➡"Our Common Future"➡"Transforming our world"という問題意識と課題設定の系譜が読み取れます。

つまり、「たった1つしかない地球で」人口・資源消費・環境負荷の爆発的増加で自滅することなく、「人類の未来を明るくするには、世界をがらっと大きく変えることが必要だ」ということです。

変革の度合いを測るために設定されたのがSDGs17ゴール・169ターゲットの指標体系です。SDGsはあくまで目標であって、目的ではないことを忘れてはなりません。つまり、SDGsにおいて最初に着目すべきは、Gsではなく、SDの方です。

そこで、SD(持続可能な開発)の本質を確認しておきましょう。"Our Common Future"では次のように定義しています*1。

"Sustainable development is development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs."

「持続可能な開発とは、将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすような開発をいう」

*1 参考文献(PDF)

ここには世代内の公平性と、世代間の公平性の2つの公平性の観点が含まれていると考えられます。

単純化して一言でいえば、世代内の公平性とは貧富の格差の解消、貧困の撲滅です。ただし、それを実現するのに、将来の世代を犠牲にしてはいけないよ、というのが世代間の公平性です。ここでいう将来の世代には、現在の子供たちだけでなく、これから生まれてくる(今は存在しない)未来の子供たちも含まれます。

要するに、持続可能な開発とは、「自分がお爺ちゃん・お婆ちゃんになったときに、あるいは、お墓の中の人になった後に、自分の子孫がいるとして、彼らに恨まれるより、ありがとうと感謝されるようなことをしておこう、と考えれば難しくないですよね?」と伝えていますが、いかがでしょう。

このあたりの経緯等、詳しく学びたい方は、ぜひ、サステイナビリティ経営人材養成講座をご活用ください。

2. 企業経営におけるサステイナビリティとは?
2-1. ESGのはじまりは20年前

SDGsが社会課題であるとすれば、ESGは経営課題です。その始まりは、2004年に公表された 国連グローバル・コンパクト(UN Global Compact)のレポート"Who Cares Win"です(国連広報センターでは「思いやりのある者が勝利する」と訳しています)。その「勝利」とは投資の成功ですが、単に儲かった、損したという話ではありません。

"Ultimately, successful investment depends on a vibrant economy, which depends on a healthy civil society, which is ultimately dependent on a sustainable planet."

「突き詰めれば、投資の成功は活力ある経済に依存し、活力ある経済は健全な市民社会に依存し、健全な市民社会は究極的には持続可能な地球に依存している。」

これがESGの考え方の原形であり中核です。経済活動の担い手である企業は、環境(E)や社会(S)の課題を「外部不経済」として知らない振りをするのではなく、自らのガバナンス(G)の対象とすべきであり、投資家も、ESG要因を考慮して投資判断をすべきとする、ESG投資の必要性が明確化されました。

アルファベット3文字の並び順がSGE、SEG、GES、GSE、EGSのどれでもなく、ESGであるのは、偶然や気まぐれではなく、意味と意図があるのです。

そして2006年、全面的にESGの考え方を取り入れたPRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)により、ESG投資が本格的に始まりました。

2-2. サステイナビリティ開示基準

ESG投資においては、投資家がESG要因を考慮することで、企業がESG要因に取り組むことが促進され、結果として持続可能な開発に寄与することが期待されています。

したがって、サステイナビリティ経営とは、企業経営においてESG要因に取り組むことと同義と考えて差支えないでしょう。ただ、企業は具体的に「何に・どのように」取り組んだらよいのでしょうか?

実はこの点が、従来は評価機関・評価手法により異なり、同じ企業に対する評価結果も異なってしまうことが、大きな問題点でした。

しかし2023年6月、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による「サステナビリティ開示基準」が策定されたことで、企業が何に取り組むべきか、どのように計測し開示すべきかの全体像が明らかになってきました。

日本では2024年3月に、ISSB基準を国内適用するために、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)による「サステナビリティ開示基準」公開草案が公表されました。同基準は2025年3月までに確定される予定です。また、その先の国内適用については、金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」での検討が始まっています。

次回は、こうした開示基準をめぐる動向とともに、サステイナビリティ経営の取組をステークホルダーに伝えるコミュニケーションのデザイン(設計)について解説します。

西原 弘  プロフィール

有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役
学生時代の1990年以来、「サステイナブル」をライフワークとし、中小企業から上場企業まで、経営計画・事業開発・資金対策・人材育成・情報開示の面からサステイナビリティ経営を支援。サステイナビリティ経営人材養成講座主催。
日々のニュースからSDGs・ESG関連ニュースをピックアップしコメントするデイリーSDGsニュースを、2021年8月1日から毎日投稿中。