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ラトビア「イェヴァおばあちゃんの家」|翻訳者派遣会社が送るエッセイ 未知しるべ

ラトビア「イェヴァおばあちゃんの家」

翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ

ラトビアの森

未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、ラトビアの田舎、イェヴァおばあちゃんの家での忘れがたい思い出をお伝えします。

「Holiday Tour」を探して

ラトビアは森の国だ。 今ではそれを売りにしたラトビア製のオーガニック・スキンケア商品なども見かけるなど、知名度も上がってきている。だが、私がラトビアを訪れた1996年は独立から5年後とあって、まだ情報も訪れる人も少なかった。


そんなわずかな情報の中に、「ファームステイ先を紹介してくれる旅行会社」というものがあった。詳細はわからなかったが、とにかく行ってみようと訪ねてみることにした。しかし、住所を頼りに旅行会社「Holiday Tour」を探すも、一向に見つからない。 「住所的にはここら辺のはず...」 誰かに尋ねようにも、通りかかる人もいない。

仕方なく、とある建物を入り、2階のオフィスらしきところを覗き込む。

「ズドラストヴィーチェ」。

ロシア語で挨拶をすると、中から女性が出てきた。英語が通じるか不安だったが、Holiday Tourを探している旨を伝えると、思いがけず流暢な英語が返ってきた。それも、にこやかな笑顔とともに...。 結果から言うと、ここが目指す場所、「Holiday Tour」のオフィスだった。しかし改めて看板を見ても、どこにも「Holiday Tour」の文字はなく、キリル文字が並ぶばかり。確かに現地語表記だけでは読めないが、せめて併記してほしかった...。たどり着けたのは、本当に運がよかったと思わざるをえない。

オーナーが英語を話せること、1泊でもOKなところ、できればサウナがあるといい、など希望を言うと、女性は電話帳のようなものをペラペラとめくって、いくつかのところに電話をかけた。

「ここはどう?オーナーは英語を勉強中だけど」

OKすると、最寄りの駅への行き方を教えてくれた。駅にはオーナーが迎えに来てくれるという。

おばあちゃんとピアスの若者

さて後日、指定の駅で待っていると、ぴちぴちのフレンチスリーブのブラウスとタイトスカート、むっちりとした腕にバッグをかけた白髪のおばあちゃんが現れた。 「さあ、こっちよ」 おばあちゃんに先導され、ピアスをした兄ちゃんが運転する車へ。車内でお互いに自己紹介をし(おばあちゃんの名前はイェヴァといった)、途中、何カ所か店に寄って買物をして、ようやく家に着いた。

おばあちゃんは「ありがとねー」という軽い感じで兄ちゃんに言い、兄ちゃんはおばあちゃんの荷物を全部下ろしてから、軽く頷いて去って行った。近所の若者だったのだろう。旧ソ連圏では、年長者は未だに権威を持っていて、ピアスをしたり、入れ墨をしたり、"いきがった"若者も年長者の前では大人しいものだ。

「サウナに入りたいんだけど」

そう申し出ると、イェヴァおばあちゃんは満面の笑みを浮かべた。「サウナね、もちろん大丈夫よ」 そして「ニコラ」と大男の旦那さんを呼び、ラトビア語で何事かを告げる。おそらく「この子がサウナに入りたいっていうの、準備してちょうだい」みたいなことだろう。大男のニコラは「ダー(YES)」と短く、魅惑のバリトンボイスで答えると、家の外へと出て行った。

しばらくして、裏からカコーン、カコーンという音がしてきた。不思議に思って見に行くと、なんとニコラが斧を振り上げ、薪割りをしているではないか!

「サウナ、そこからか!」

まさかの展開に思わず、私は叫んでいた。 ニコラが薪割りから用意してくれたサウナは体の芯まで温めてくれた。冷えて澄み切った夜気にもめげず、満点の星空、あまりにも星が多すぎて天の川を見つけるのが難しいくらいの夜空を飽くまで見ることができたのは、間違いなくニコラのサウナのおかげだ。

ラトビアの森へ

翌朝、川のせせらぎを聞きながら、森の中を散策する。黒い土はしっとりとしていて、木々の緑も湿り気を含んでいる。すべての絵の具を使っても、ここの緑色を描き尽くすことは難しいかもしれない。霧のようなもやがかかった遠く、馬蹄の音が響く。道に出ると、馬車とすれ違った。各戸に牛乳を配達中らしい。荷台にはアニメ「フランダースの犬」で見たことのある大きなアルミ缶のようなものが積まれ、よく見れば各戸には荷台の高さに合わせた荷受け台が備え付けられていた。

「家に帰ったら、イェヴァおばあちゃんに牛乳を飲ませてもらおう」。

ラトビアの田舎は、夜も朝も美しい。

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