ニジェール・首都空港「これぞ"働き方改革"!?」
July 24, 2018
翻訳者派遣会社が送る、世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ
未知を求めて世界を旅するヤマ・ヨコのエッセイ。今回は、西アフリカのニジェールの首都ニアメのディオリ・アマニ国際空港での一幕をお届けします。
ニジェール共和国は、西アフリカに位置する。
世界最貧国の一つとあって、旧宗主国フランスからもさほど重視されていないらしい。その証拠にパリのシャルル・ド・ゴール空港からニジェールへ発つ便は深夜、ニジェールから着く便は日の出前の早朝に限られている。それでも週2便とはいえ"定期便"があるのは、"僥倖(思いがけない幸運)"と言うべきかもしれない。
そもそもなぜ世界最貧国の一つにして、観光地らしい観光地もないニジェールに行くことになったのか。
それは私の唯一の"へき友(僻地旅行に自ら進んで付き合ってくれる中学時代からの貴重な友人)"が、青年海外協力隊としてニジェールに赴任していたからだ。こんなことでもなければ、一生行くこともないだろう国、それがニジェールだった。
深夜にシャルル・ド・ゴール空港を発った飛行機は、早朝にニジェールの首都ニアメの郊外にあるディオリ・アマニ空港に到着。友人と久々の再会を果たした。
空港は閑散としており、乾いた空気が砂漠の国であることを告げていた。「念のために、リコンファーム(予約確認)をしておこう」と、街中に出る前に航空会社のカウンターに向かう。係員は事務的に手続きをし、
"Check-in by four"
と言い放った。
はいはい、と耳半分で係員の英語を聞いていたが、思いがけない一言にフリーズした。英語が得意なわけでもない私は聞き間違えたと思い、"four?"と、おうむ返しに聞き返す。飛行機は深夜1時の便のはずだ。4時ということはあるまい。
"Yes, four"
係員の返答はいたって簡素だった。
夕方4時に来てチェックインをして、機内預けの荷物を預けて、出発まで9時間を空港で無為に過ごすか、いったん街に戻り出発2時間前の夜11時に再び来るかしろと言うのだ。思わず「マジか〜」とため息が出る事態。しかし、友人は冷静だった。ニジェールに赴任してすでに1年、こうした日本ではありえぬ事態にも免疫ができているのだろう。無駄な抵抗はしない。「行こう」と先に立って歩き出す。
ニジェール滞在中の"あれやこれや"についてはまたの機会に紹介するとして、今回は出立日まで早送りにする。
まだ日の高い3時、前日にお願いしておいたタクシーに乗り空港へ向かう。航空会社のカウンターにはすでにチェックインする乗客の列ができていて、電光掲示板には深夜1時発のパリ行きの文字。実はそれまで例えば「ニジェール人やEU諸国の人以外は、4時まで」とか限定付きの処置ではないかと一抹の疑念を持っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
チェックインをすませ、荷物を預けて、空港からの帰路についたのは4時を少し回った頃だった。タクシーの運転手は、早道なのか行きとは違う舗装されていない裏道にハンドルを切った。ゴミ山を漁る子どもたちの横を粉塵を巻き上げて走り、ついにはスタックした。エンジンを吹かせてもブオーンブオーンと空しく響くばかり。運転手は降りて後部座席のドアを開け、私たちに車の後ろを押すように指示する。砂にまみれながら車を押し、ここで置き去りにされるのだけは嫌だと心底思う。夜にはこの道を通りたくない、とも。 そう、自分が嫌なことは他人も嫌なのだ。
ニジェールでは、そして世界のほとんどの国では、客は神様ではない。従業員は「嫌なことは嫌」と言い、客側も「そりゃそうだよね、自分がその立場だったら嫌だもん」と受け入れる(もしくは、あきらめる)。
かくして、誰もが嫌な深夜1時のボーディング業務は必要最小限の人数で行えるよう、チェックイン時間は夕方4時に設定されたというわけだ。
「嫌なことは嫌」、「やりたくないことはやらない」。「働き方改革」とか大上段に構えるよりも、普通にそう言える世の中であってほしい。そう思うのは私だけではないはずだ。逆に日本にはびこる「忖度」ウイルスを持ちこんだとて、息を吸うのも熱い、ニジェールの乾いた空気の中ではひからびて絶えてしまうに違いない。