第2回:英語の大海で漂流しないために、自分の羅針盤を持つ
翻訳学校を利用するメリット
さまざまな理由から会社を退職し、翻訳者を目指すことにした私は、ここでもまた翻訳学校の門を叩くことに。翻訳の基本と、映画の字幕・吹き替えからコンピューターまで幅広いジャンルを一通り学んだ後は、文芸翻訳への思いを断ち切れぬまま、次第に実務系の方に学習の軸足を移していきました。当時はとにかく学校の課題を一つ一つこなしていくことに必死でした。A4一枚を訳し上げるのに数日かかったこともあります。しかし今思えば、このときにじっくりと原文と向き合ったことが今の仕事の土台になっていると確信しています。あやふやな英文法を徹底的に見直し、原文の真意を深く考えて適切な訳語を選択し、漢字や慣用句の使い方に間違いがないか、よりふさわしい言い回しはないかを辞書で調べる。そして最後に、誤訳・訳漏れを赤ペンでチェックし、訳文を音読して、読みやすさと文章の流れを目と耳で確認する。もちろん現在の翻訳の仕事のプロセスもこれと何ら変わりませんが、長々と時間をかけることはできません。
適度な長さの課題を深く掘り下げ、同じ教室の仲間の訳文と比較しながら、自分の引き出しを増やしていけるのが翻訳学校の利点の一つでしょう。また多くの場合、講師は現役の翻訳者の方ですので、このような先生方とのパイプを確保することも大切です。実際に、私は講師の先生の紹介で、アークコミュニケーションズの前身の翻訳会社のトライアルを受け、翻訳者としてのキャリアの一歩を踏み出すことができました。
専門分野を確立することの大切さ
翻訳の仕事を始めてからは、来る仕事を拒まずに受けているうちに、ビジネス書から医薬論文までどんどん分野が広がっていきました。 5年ほど経ち、翻訳学校時代の友人から、ロマンス小説の下訳を一部担当してみないか、と声がかかりました。文芸翻訳に未練のあった私は二つ返事で引き受けたのですが、いざ取りかかってみると、意味は理解できるものの翻訳となるとまったく歯が立たない。5年かけて私が培った翻訳力は、実務系に限定されたものだったと痛感しました。友人に平身低頭したことは言うまでもありませんが、この苦い経験の後、実務系の中でも軸となる専門分野をもっと明確に確立したいと考えるようになりました。 専門分野の翻訳に精通するのに、私が最も効果的だと感じているのは、原文と訳文の対訳を入手し、それらを双方向で訳せるようにする練習です。その分野の専門用語はもちろん、特有の言い回しや動詞の使い方も習得できます。私は翻訳会社のコーディネーターの方に、学習用として対訳データベースの一部を譲っていただきましたが、今はネット上でもさまざまな形で対訳資料が閲覧できます。もちろん、質の高い翻訳であることが重要です。 これからも翻訳者として仕事を続けていくために、やりたいこと、やるべきことが山積しています。たまの寄り道も悪くはありませんが、目的意識は常に持っていたいと思っています。
自ら英語を勉強し始めたきっかけは?
初めての海外旅行でアメリカを訪れた20歳のときのこと。英語なら任せてと意気揚々と彼の地に降り立ったものの、空港のアナウンスがまったく聞き取れず顔面蒼白。天狗の鼻をへし折られた瞬間、スイッチが入りました。
プロフィール
- 名前:SAKURA
- 職種:翻訳者
- 出身:東京都
- 趣味:街中散策
- 海外経験:イギリス(2カ月)
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第2回:英語の大海で漂流しないために、自分の羅針盤を持つ(SAKURAさん)