対談記事

2024年7月

変貌するTBSグループが統合報告書に注力する理由

「総合」報告書ではダメ 「統合」報告書をつくろう

大里:実際にどのようなプロセスで統合報告書を開発したのかお教えください。また、その中で何か学びのようなものはありましたでしょうか。

対談,アークコミュニケーションズ,TBSホールディングス様

赤阪様:初年度は、8人ほどのチームで立ち上げました。二年目は16人、三年目は24人、四年目、つまり現在ですが、およそ30人が編集作業に関わっています。全員が他に主務を持った兼務者、つまり社内・グループ内の持ち場から情報を持ち寄れるエキスパートたちです。メンバーは「統合報告書って何?どんな報告書がいい報告書?」という摸索から始めましたが、「報告したいが報告すべき事がない!」ということもしばしばでした。一例を挙げますと、統合報告書ではその社の重要課題=マテリアリティを解説することが求められますが、第一号発行当時、TBSグループにはそれがありませんでした。そのような「欠けたる所が見つかること」は統合報告書編集のメリットの一つです。マテリアリティという経営課題をきちんと設定しようという気運が高まり、経営陣の議論を経て、2022年発行の第二号からは、マテリアリティを記載しています。

"長期ビジョン"を設定したなら、その実現のためには"戦略"が必要になり、戦略に基づいて"戦術"を構築する必要が、そしてその戦術をどうとるかの"数値目標(KPI)"が必要となります。会社のビジネスがどのくらい体系的に組み立てられているか、統合報告書に求められるのはそうした記述ですが、そのための「統合思考」が社内に芽生え、育ったなという実感があります。

馬場:編集作業に対し、社内でネガティブな声などはなかったのですか?

赤阪様:目に見え、肌に感じる逆風というのはありませんでした。一号目が完成した当時は、それを読んだ経営陣から、「へえ、こうだったんだ」「僕らも知らないことがいっぱいあった」というポジティブな感想が聞かれたくらいです。統合報告書の編集が、いわば「会社の自己診断」的な機能を果たして、対外開示だけでなく、自社を客観視する機会になったかな、と手応えを感じました。

社内だけではありません。TBSグループ各社で働きたいとエントリーしてくれる新卒の学生さん、そしてキャリア入社を望まれる社会人の方達は、必ずといって良いほど、統合報告書を熟読してくれているそうです。TBSの競争優位性や価値、目指す方向に超える必要のある課題を理解するツールとして活用してもらっていることは嬉しいことですし、統合報告書を熟読した末、当社を選んだという方は、非常に強力な戦力としてなってもらえるなと期待できます。

編集チームの会議では、しばしば、「統合ならぬ"総合"報告書は作らないようにしような」と呼びかけています。編集メンバーが、自分の所属する部署の利益代表となり、各部署のアピールばかりが羅列された「総合カタログ」めいた報告書では何も伝わらないという意味です。統合報告書はあくまで、グループの存在意義や価値、競争優位性と課題を統合的に示し、一本の「価値創造ストーリー」を通じて理解していただくためのものだということを忘れないように努めています。

「観察・分析・表現」それを翻訳でも

馬場:貴社は第一号から統合報告書の英語版も発行されていますね。一般には、まず日本語から始め、次に英語版を作る企業が多い中、最初から英語版を意識されたのはどういう理由からでしょうか。

赤阪様:英語版を作ることは第一号の発行時からの大前提です。コンサルとして伴走してくださっている野村インベスター・リレーションズとの議論でも、TBSがグローバル戦略を打ち出しているなら英語版は必須、と早々に決まりました。認定放送持株会社である当社は、制度上海外資本比率の制限があるため、「英語版の重要度はやや落ちるのでは?」という意見もありました。しかし、今後グローバルに打って出ようとするなら、海外の事業パートナーをはじめ、出来るだけ多くのステークホルダーにTBSグループという存在を英語でもしっかり開示することは、ビジネス上も大きなメリットがあるという判断でした。

馬場:そんな中で翻訳会社に当社を選んでいただきましたが、アークコミュニケーションズの翻訳のどのようなところが貴社のご意向に沿えたのかお教えいただけますでしょうか。

赤阪様:アークコミュニケーションズに翻訳を依頼したのは2023年版、第三号からでした。以前の号の翻訳を社内のネイティブに読んでもらった際、いくつか指摘を受けた英語表現もあったため、出来上がった日本語版を翻訳して、というシンプルな作業からもう一歩踏み込んで、翻訳者との対話、議論をしながら英語版を作りたいと希望して、それが可能な会社ということで御社にお願いすることになったのです。

馬場:それは本当にありがとうございます。翻訳のどのようなところにご苦労なされたのでしょうか。

赤阪様:当社のブランドプロミス「最高の"時"で、明日の世界をつくる」は、英語表記では「From each moment, a better tomorrow」としています。プロミス策定時に、ネイティブの人と議論し、日本語の直訳では伝わりにくいため、メッセージの意図がストレートに伝わるように「From each moment...」としたわけですが、キーワードとして「最高の"時"」だけを単体で切り出して文章の中で使ったとき、その翻訳が「each moment」でいいかというと、意味が違ってきますね。では、当社のブランドプロミスの意味を理解した上で、別の言葉で「最高の"時"」を英語でどう言えばいいのか、これは単語を翻訳機にかけただけでは決して適切な言葉にはなりません。そこには翻訳者と当社による「観察・分析・表現」の共同作業が必要になるわけです。

大里:アークコミュニケーションズのミッションステートメントは「お客様の思いや本質を、わかりやすく世界に伝える」こと。そうしたわたしたちのミッションステートメントを実現できる、お客様の想いや本質が詰まっている統合報告書の翻訳は、まさにその真骨頂だと思っています。現場では上手く「言葉のキャッチボール」ができていますでしょうか?

赤阪様:はい。初めからネイティブの方が翻訳するのが御社の持ち味、と聞いていましたが、出来上がった翻訳に当社内のネイティブや英語使いたちも「異論を挟む余地がない」と申しています。統合報告書では当社が独自に作った言葉や専門用語、つまりTBS特有の"造語"もしばしば使われますが、それを英語に翻訳した言葉など、どんな辞書にも載っていません。新たな英語表現を共に「生み出してゆく」、そんなご苦労を御社におかけすることになるかと思っています。

大西:いいえ、むしろ御社と一緒に新しい言葉・翻訳を作っていけることを楽しみにしています。会社の背景を十分理解した上で、新しい表現をこれからも作っていきたいと思います。

「変わりゆくTBSの姿」を英語で世界に伝える

大里:今年の統合報告書では、何か新しい展開を考えていらっしゃるのでしょうか。

赤阪様:2024年は、新たな中期経営計画が発表され、ボードメンバーも交代しましたので、2024年版の統合報告書第四号では、経営の全体像についての記述を相当刷新する必要があります。加えて、芸能事務所で起きた事案に端を発したビジネスと人権についての問題に社会の注目が高まる中、TBSがメディアとしてどのように対応し、態勢を整備しているのかを誠実にご報告するという義務もあります。

大里:英語版に関してはいかがでしょうか。

赤阪様:2023年にTBSにはグローバルビジネス局という部署ができました。これからは、放送コンテンツを海外に売りに行くだけではなく、コンテンツサプライヤーとしてのTBSが、海外のプロダクションやスタジオとパートナーシップを組んで共同制作していくビジネスモデルをとっていくことになります。放送で培ったコンテンツ力を世界規模で発揮してグローバルなビジネスを展開する「元年」だと、新しい中期経営計画では宣明しているのです。当社がいかに世界に打って出て、そこで勝てるか、その戦略や進捗を、英語版でしっかりと示す必要があります。

東京の放送局=TBSとして生まれた当社ですが、先年の商号変更を経て、「東京放送」と名乗ることはもうありません。東京を超え、放送を超え、世界にコンテンツを通じて「最高の"時"」を届けるグループに。冒頭にも申し上げたトランスフォームの決意を、英語ネイティブの読者の方々にもしっかり伝えたいと考えています。翻訳面でも色々とお手数をおかけすることになると思いますが、今後ともよき協働をお願いします。

大里:ご期待に沿えるよう頑張ります。本日は貴重なお時間をありがとうございました。

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