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対談記事
2024/01/10

1300年前のレシピで蘇る「日本酒を超える日本酒」の世界戦略とは

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1300年前のレシピで蘇る「日本酒を超える日本酒」の世界戦略とは

異業種から酒造経営へ乗り出し
規格外の酒「長屋王」を武器に世界へ

「自社製品を販売に行ったはずが、気が付いたら蔵を買っていた」。そんなエピソードを持つ(株)栗田機械製作所の社長であり、(株)中本酒造店の蔵元を務める栗田佳直氏。従兄で、(株)マーケティング・エクセレンスの代表取締役を務める栗田康弘氏と異色のタッグを組み、「日本酒の概念を覆す新しい日本酒」の世界を切り拓こうとしています。

ターゲットは全世界の美食家たち。日本酒やワインといったカテゴリーを超えた「唯一無二の存在」として世界へアピールするには、「英語サイトは必須」と、アークが翻訳、デザインなどの制作サポートをした「長屋王~PRINCE NAGAYA―The Golden Sake Lost to Time」をリリース。海外での展示会への出展なども行う中で、その注目度は高まりつつあります。

「長屋王」を武器に世界へと切り込む蔵元の栗田佳直氏とマーケティング担当の康弘氏に蔵購入のきっかけや世界に目を向けることになったターニングポイント、今後のビジョンなどについてお話を伺いました。

対談,アークコミュニケーションズ,株式会社中本酒造店様,株式会社栗田機械製作所様

左より栗田佳直様、大里、栗田康弘様

プロフィール
栗田 佳直 株式会社中本酒造店 蔵元
      株式会社栗田機械製作所 代表取締役
栗田 康弘 株式会社中本酒造店 蔵元代理
      株式会社マーケティング・エクセレンス 代表取締役
大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役

「昭和の大恐慌」に創業
ろ過機の専業メーカーとしてトップシェアへ

大里:栗田機械製作所は、フィルタプレス(加圧ろ過機)のトップランナーであり、90年を超える歴史があるとお聞きしましたが、その歩みから教えていただけますか。

栗田佳直様:1930年に私の祖父が創業したのが、栗田機械製作所の始まりです。最初は、機械のことなら何でも請け負っていたのですが、ろ過機が大ヒットしたのを機に専業メーカーへと舵を切ることに。 その後、祖父の長男が2代目となり、紆余曲折の末に全自動化を成し遂げたのが昭和30年代のこと、1960年前後ですね。当時はイタイイタイ病や水俣病をはじめとする公害病が大きな社会問題となり、環境規制という概念が生まれ、生産工程の見直しが進められ、当社の全自動ろ過機も大きく伸長しました。 そんな全自動化で勢いづく最中に、2代目が45歳の若さでまさかの急死。息子である康弘はまだ中学生だったこともあり、弟が3代目を継ぐことになりました。

大里:弟さん、つまり佳直さんのお父様が3代目となられたのですね。お父様は、もともと商社にお勤めだったと聞いていますが。

栗田佳直様:そうです。それもちょうどよかったんだと思います。開発した当初は、全自動は当社製品だけ。向かうところ敵なしでしたが、そのうち競合も出てきます。そんな時に代替わりし、商社で培ったノウハウで販売戦略を練り直し、より確度の高い提案を行ったり、商品構成を見直したり...。その父も60歳の若さで亡くなりました。

栗田機械製作所の4代目に就任
営業で酒蔵を訪問したはずが「蔵」を購入!?

大里:それで、佳直さんが4代目となったのですね。

栗田佳直様:2代目の息子の康弘が嫌だと言ったものですから(笑)。私もそれまでは商社に勤めていたのですが。

大里:康弘さんは当時、何をされていたのですか。

栗田康弘様:私は銀行に勤めていてアメリカでの海外赴任も経験した後、自身でマーケティング会社を立ち上げました。

大里:では、お二人とも日本酒業界とは全くつながりがなかったということですか。

栗田佳直様:祖父も父も下戸だったものですから(笑)。実際には、酒蔵に営業に行ったこともあったらしいのですが、「テリ」や「ツヤ」がどうこうという、数値化できない世界に閉口して、手を引いたと聞いています。そのまま手つかずだったのですが、取引銀行の紹介もあって、私の代になって久々に伺ったのが中本酒造店だったというわけです。

大里:なるほど。最初は営業で訪問されたのですね。

株式会社中本酒造店様,株式会社栗田機械製作所様

栗田佳直様:そうです。ところが、一通り当社のろ過機の説明をし終えたところで、「実は廃業しようと思っているんです」と。まさに寝耳に水でしたね。そうしたら銀行が、「栗田さん、蔵を買いませんか」と、言うんですよ。最初は全くそんな気はなかったので、即座に断りました。でも、なんだか気になってね。「お米の仕入れルートも確保できているし、杜氏も蔵人もいますから」と言うので...。290年もの歴史ある蔵がなくなるのももったいないとの思いもあり、だんだんやってみようかという気になっていきました。家業を継いで、敷かれたレールの上を走ることに、不満を感じていたわけではないのですが、「一から何かを始めてみたい」という気持ちがあったのかもしれません。

大里:機械を売りに行ったはずが、気が付けば蔵を買っていたと?

栗田佳直様:ええ。しかも買ってみたら、杜氏が1週間前に辞めたと。まだ30代半ばだった若頭を新しい杜氏に据えて、杜氏組合に相談に行って、なんとかスタートすることができたんですけれども。

栗田康弘様:蔵を買ったこと、しばらく言わなかったよね。

栗田佳直様:「銀行の口車に乗せられて」と言われると思ってね。実際、自分でもそう思っていましたから。でもまあ面白いからいいかとね。

1300年前のレシピで蘇る「日本酒を超える日本酒」の世界戦略とは

商売人の本能を呼び覚ますB2Cの魅力とは?

大里:本業のB2Bと違う、B2Cの面白さというのもあったのでしょうか。

栗田佳直様:機械は図面通り、100%予測がつく世界なのですが、日本酒はそういうわけにはいきません。嗜好品ですから、「こうすれば売れる」という方程式がない。また機械は安いものでも1台2,000万円はしますし、メンテナンス費も継続的に入ってきます。それに対して日本酒は本当に薄紙を1枚、また1枚と積み重ねていく感じです。「こんなに売れた」と手応えを感じても、手元をよく見れば、つまめる程度の厚さでしかない。そういうしんどさやもどかしさはあるんですが、同時に自由もある。誰に売ってもいい、どう造ってもいい、機械にはない自由があるんです。そして何と言っても楽しい。例えばイベントで、「美味しい」と言って買ってくれる人がいると、「蔵の皆に伝えないと」と嬉しくてソワソワしてしまいます。人間の、商売人としての本能なんでしょうか。

栗田康弘様:B2Bはロジカルな世界なのに対し、B2Cはよりエモーショナルなんですよね。消費者との距離が近い分、反応もダイレクトに、よりビビッドに返ってきます。あと栗田機械製作所のろ過機は国内トップシェアですし、そもそも競合メーカーが少ない。ところが日本酒の蔵は全国に1,300もあるというんです。1,300ものライバルがいる中で、普通のことをやっていては埋もれてしまう、そんな危機感も新鮮で、刺激的でしたよね。

奈良時代の酒造りを再現
磨き9割・ご飯米・一段仕込みの規格外の酒「長屋王」

大里:ライバルとどう差別化を図るかというところから、「長屋王」が誕生したというわけなのですね。

栗田佳直様:「長屋王」自体は、先代の置き土産としてあったんです。ただ誰も注目していなかった。そもそも「長屋王」は天武天皇と天智天皇の孫で、皇位継承の可能性もある非常に有能な人物だった、そしてそれがゆえに藤原氏一族から「危険人物」とみなされ、政変をたくらんだとして自死に追い込まれた、いわば"悲劇の皇子"です。1980年代にそごうがデパートを建てようとして奈良市内を掘っていたら、大量の木簡が出土し、そこが長屋王の邸宅跡だということが分かりました。その木簡の中に酒の造り方を記したものがあり、その復元に取り組んだのが、当店オリジナルの「長屋王」です。

大里:奈良時代のお酒の造り方ということですが、具体的にどのような違いがあるのですか。

栗田佳直様:違いは3点あります。1つは精米歩合が9割と、ほぼ玄米に近い状態であること。当時、酒米はまだなかったのでご飯用のお米で造っていること。もう1つは一段仕込みであることです。

株式会社中本酒造店様,株式会社栗田機械製作所様

栗田康弘様:日本酒は精米歩合によって、吟醸、大吟醸のように分類されるのはご存知のことと思います。吟醸は60%以下、大吟醸は50%以下という規定があるんですね。お米の外側の部分を削ることで、より雑味がなく、クリアな味になるとされています。しかし奈良時代にはお米を磨く技術はなかったので、ほぼ玄米に近い状態で酒を造っていたはずです。
また、タンクに蒸した米・麹米・水・酒母を入れていく「仕込み」も、3回に分けて行う「三段仕込み」が現代では一般的で、これにより雑菌の繁殖を抑え、安定した品質のお酒を造ることができるとされています。これを「一段仕込み」にすることは生産者としてリスクを負うことになりますが、それでも当時の再現にこだわりました。

栗田佳直様:一言でいえば、「長屋王」は、これまで日本酒を美味しくするために突き詰められてきた造り方とは全く真逆を向いている、対極にあるものだと言えます。

「ソーテルヌっぽい」
シェフの一言が海外展開のヒントに

大里:マーケティングの専門家である康弘さんは、差別化戦略には「これだ」とお思いになったわけですね。

栗田康弘様:いや、実はですね、蔵元が味を度外視して造ったと言っていたので、手伝い始めてからしばらく味見もしていなかったんです。友人の紹介で創作料理に日本酒をペアリングして提供しているお店に、うちの蔵の純米大吟醸と純米吟醸の辛口、それに「長屋王」の3種類を持って行ったところ、シェフが「こんなお酒は他にはない」と「長屋王」にだけすごく興味を示してくれたんです。また、別のミシュランシェフからは、ソーテルヌっぽいと言われました。で、これは行けるぞと。

大里:ソーテルヌですか。フランスの極甘口の貴腐ワインですよね。

栗田康弘様:ええ、デザートワインとして飲まれることも多い極甘口です。「長屋王」は、「端麗辛口」のような従来の日本酒の概念に全く当てはまらない、造り方も真逆なら、味わいも真逆というわけです。

栗田佳直様:「長屋王」について言えば、皆さん「精米歩合9割なのにこんなに美味しいの?」と驚かれるのですが、今まで雑味と言って捨てていたものが、実は旨味だったのかと。

栗田康弘様:ソーテルヌっぽいというのがヒントになり、フランスの日本酒コンクールでプラチナ賞をもらったこともあり、むしろ日本でよりも海外で売れるのではないかと、JETROのサポートのもと、アメリカやフランスのインポーターに商談を持ちかけました。欧米人は「日本酒かくあるべし」という先入観がないため、純粋に味を評価してくれる、そこに好機があると。実際に、昨年サンフランシスコの日本国外最大最古の日本酒イベント「SAKEデー」で非常に高い評価を受け、ミシュラン星付きのレストランでも採用されました。続いてドイツのケルンメッセという巨大な会場で行われる世界的な食の展示会「ANUGA」にも出展したのですが、試飲した9割のバイヤーが美味しいと言ってくれました。バイヤーたちは全世界から参加していて、どこの国の人かメモしておいたのですが、アルゼンチン、ウクライナ、タイ、ブラジル、ナイジェリア、サウジアラビア、トルコ...と、本当に欧米、アジア、中東、アフリカ、すべてのエリアにわたっています。フランスのパリで、インポーターと同行営業した時も、訪問したレストラン9店舗のうち5店舗がその場で注文してくれました。

大里:それはすごい!差別化はマーケティングの第一歩だと思いますが、原石が蔵に眠っていたのですね。

日本酒の枠を超える「長屋王」で世界を制す

栗田康弘様:最初蔵元は、話題づくりのために「まずい酒」をつくろうかなんて冗談で言っていたんですよ。とにかく1,300もの蔵があるわけですから、正攻法で純米大吟醸で戦っていたら、どれだけ美味しくても目立つことは難しいです。また、「長屋王」は普通の日本酒好きの人たちからは「甘すぎる」という声がほとんどでした。高く評価してくれたのがイタリアンやフレンチのシェフだったということもあり、「日本酒」という枠の外で戦おうと思ったんです。また、海外で日本酒を飲もうという人は、もともと味覚もマインドも広いので、美味しければ美味しいと認めてくれるし、他にはない味だということを評価してもくれます。

大里:海外戦略を本格化させたのは、国内よりも海外でのほうが、「日本酒」という呪縛を解かれて、正当に評価されるだろうということなのですね。

栗田康弘様:この酒なら世界を取れる、「天下を取りに行こう」と本気で思っています。日本でも、こだわりのあるレストランなどで置き始めていただいていて、グルメな方々には評価していただいています。

「長屋王」の唯一無二のストーリーと味を世界に発信

大里:海外に打って出るには、英語での情報発信は必要不可欠ということで、「長屋王」の英語サイトをつくるのを当社でサポートさせていただきました。

栗田佳直様:その節はお世話になりました。ゼロから制作したのですが、とてもオシャレなサイトに仕上げていただいたと思っています。

栗田康弘様:翻訳の品質は非常に高く、さすがと思いました。サイトでは、その味とともに、1300年前のレシピを再現したという長屋王のストーリーを前面に出し、唯一無二のものであることを訴求したいと考えていました。私たちの意図を汲んで、他にはない日本酒というコンセプトに沿ったデザインや構成にしていただけたと感じています。おかげで、サイトで初めて長屋王を知った人にもわかりやすく、長屋王についてもっと詳しく知りたいという人にもより興味を掻き立てられるものとなりました。

栗田佳直様:可能性は無限大で、まさにロマン。自由な発想で楽しみながら、あれこれチャレンジしていきたいと思っています。すでに計画している次のチャレンジは、甕仕込み。1300年前はタンクではなく甕を使っていたはずですから、信楽に注文して甕を焼いてもらいました。さらに世界的な陶芸家の道川省三氏に作陶いただいたアート作品で「長屋王」を仕込む試みも計画しています。

栗田康弘様:ライバルは他の日本酒ではなく、1,300の蔵でもないです。いま世界的にコース料理の一品一品にそれぞれグラスワインをペアリングして提供するレストランが増えています。そこでワインの代わりに選ばれる1杯になりたいなと。全世界の一流シェフと美食家を唸らせたいという、唯一無二のブランディングを目指していきたいと思っています。

大里:異業種から参入した栗田さんたちだからこそ、日本酒の"常識"にとらわれない、全く新しいものを生み出せたのかもしれませんね。また、お二人がそれぞれの持ち味を活かして、「長屋王」を世界に送り出そうとしている姿に、お父様方が機械とマーケティングの専門家という、それぞれの立場や知識を活かして栗田機械製作所を盛り立ててこられた姿が重なりました。別々の道を歩みながら、いざという時には結束する、そんなファミリーの絆も感じ、胸が熱くなりました。ありがとうございました。

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