対談記事

2024年1月

1300年前のレシピで蘇る「日本酒を超える日本酒」の世界戦略とは

異業種から酒造経営へ乗り出し
規格外の酒「長屋王」を武器に世界へ

「自社製品を販売に行ったはずが、気が付いたら蔵を買っていた」。そんなエピソードを持つ(株)栗田機械製作所の社長であり、(株)中本酒造店の蔵元を務める栗田佳直氏。従兄で、(株)マーケティング・エクセレンスの代表取締役を務める栗田康弘氏と異色のタッグを組み、「日本酒の概念を覆す新しい日本酒」の世界を切り拓こうとしています。

ターゲットは全世界の美食家たち。日本酒やワインといったカテゴリーを超えた「唯一無二の存在」として世界へアピールするには、「英語サイトは必須」と、アークが翻訳、デザインなどの制作サポートをした「長屋王~PRINCE NAGAYA―The Golden Sake Lost to Time」をリリース。海外での展示会への出展なども行う中で、その注目度は高まりつつあります。

「長屋王」を武器に世界へと切り込む蔵元の栗田佳直氏とマーケティング担当の康弘氏に蔵購入のきっかけや世界に目を向けることになったターニングポイント、今後のビジョンなどについてお話を伺いました。

対談,アークコミュニケーションズ,株式会社中本酒造店様,株式会社栗田機械製作所様

左より栗田佳直様、大里、栗田康弘様

プロフィール
栗田 佳直 株式会社中本酒造店 蔵元
      株式会社栗田機械製作所 代表取締役
栗田 康弘 株式会社中本酒造店 蔵元代理
      株式会社マーケティング・エクセレンス 代表取締役
大里 真理子 株式会社アークコミュニケーションズ 代表取締役

「昭和の大恐慌」に創業
ろ過機の専業メーカーとしてトップシェアへ

大里:栗田機械製作所は、フィルタプレス(加圧ろ過機)のトップランナーであり、90年を超える歴史があるとお聞きしましたが、その歩みから教えていただけますか。

栗田佳直様:1930年に私の祖父が創業したのが、栗田機械製作所の始まりです。最初は、機械のことなら何でも請け負っていたのですが、ろ過機が大ヒットしたのを機に専業メーカーへと舵を切ることに。 その後、祖父の長男が2代目となり、紆余曲折の末に全自動化を成し遂げたのが昭和30年代のこと、1960年前後ですね。当時はイタイイタイ病や水俣病をはじめとする公害病が大きな社会問題となり、環境規制という概念が生まれ、生産工程の見直しが進められ、当社の全自動ろ過機も大きく伸長しました。 そんな全自動化で勢いづく最中に、2代目が45歳の若さでまさかの急死。息子である康弘はまだ中学生だったこともあり、弟が3代目を継ぐことになりました。

大里:弟さん、つまり佳直さんのお父様が3代目となられたのですね。お父様は、もともと商社にお勤めだったと聞いていますが。

栗田佳直様:そうです。それもちょうどよかったんだと思います。開発した当初は、全自動は当社製品だけ。向かうところ敵なしでしたが、そのうち競合も出てきます。そんな時に代替わりし、商社で培ったノウハウで販売戦略を練り直し、より確度の高い提案を行ったり、商品構成を見直したり...。その父も60歳の若さで亡くなりました。

栗田機械製作所の4代目に就任
営業で酒蔵を訪問したはずが「蔵」を購入!?

大里:それで、佳直さんが4代目となったのですね。

栗田佳直様:2代目の息子の康弘が嫌だと言ったものですから(笑)。私もそれまでは商社に勤めていたのですが。

大里:康弘さんは当時、何をされていたのですか。

栗田康弘様:私は銀行に勤めていてアメリカでの海外赴任も経験した後、自身でマーケティング会社を立ち上げました。

大里:では、お二人とも日本酒業界とは全くつながりがなかったということですか。

栗田佳直様:祖父も父も下戸だったものですから(笑)。実際には、酒蔵に営業に行ったこともあったらしいのですが、「テリ」や「ツヤ」がどうこうという、数値化できない世界に閉口して、手を引いたと聞いています。そのまま手つかずだったのですが、取引銀行の紹介もあって、私の代になって久々に伺ったのが中本酒造店だったというわけです。

大里:なるほど。最初は営業で訪問されたのですね。

株式会社中本酒造店様,株式会社栗田機械製作所様

栗田佳直様:そうです。ところが、一通り当社のろ過機の説明をし終えたところで、「実は廃業しようと思っているんです」と。まさに寝耳に水でしたね。そうしたら銀行が、「栗田さん、蔵を買いませんか」と、言うんですよ。最初は全くそんな気はなかったので、即座に断りました。でも、なんだか気になってね。「お米の仕入れルートも確保できているし、杜氏も蔵人もいますから」と言うので...。290年もの歴史ある蔵がなくなるのももったいないとの思いもあり、だんだんやってみようかという気になっていきました。家業を継いで、敷かれたレールの上を走ることに、不満を感じていたわけではないのですが、「一から何かを始めてみたい」という気持ちがあったのかもしれません。

大里:機械を売りに行ったはずが、気が付けば蔵を買っていたと?

栗田佳直様:ええ。しかも買ってみたら、杜氏が1週間前に辞めたと。まだ30代半ばだった若頭を新しい杜氏に据えて、杜氏組合に相談に行って、なんとかスタートすることができたんですけれども。

栗田康弘様:蔵を買ったこと、しばらく言わなかったよね。

栗田佳直様:「銀行の口車に乗せられて」と言われると思ってね。実際、自分でもそう思っていましたから。でもまあ面白いからいいかとね。