Column

2025年1月

サステナビリティコラム②:「正しく・伝わる」サステイナビリティ・コミュニケーション

西原 弘(にしはら ひろし)  プロフィール

プロフィール

有限会社サステイナブル・デザイン 代表取締役
学生時代の1990年以来、「サステイナブル」をライフワークとし、中小企業から上場企業まで、経営計画・事業開発・資金対策・人材育成・情報開示の面からサステイナビリティ経営を支援。
日々のニュースからSDGs・ESG関連ニュースをピックアップしコメントするデイリーSDGsニュースを、2021年8月1日から毎日投稿中。

略歴

1991年 東京大学文学部社会学科卒業
1991~2002年 株式会社三菱総合研究所 研究員
2002年12月~ 有限会社サステイナブル・デザイン設立 代表取締役
2020年度~ 青山学院大学SDGs/CEパートナーシップ研究所客員研究員

書籍

新版銀行業務検定試験 CBTサステナブル経営サポート対策問題集」(2024年7月29日 新2訂版発行)
経済法令研究会(「環境省認定制度 脱炭素アドバイザー ベーシック」対応)

第1回では、サステイナビリティとESGのルーツと題し、サステイナビリティについての基本的な考え方をお伝えした。今回はサステイナビリティを内容に含むコミュニケーションの留意点についてまとめた。

1. サステイナビリティ情報の法定開示

国内に適用される「サステナビリティ開示基準」は、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)により2025年3月に最終化され、2026年3月期から適用開始、その後、時価総額3兆円以上のプライム上場企業(2027年3月期)から段階的に有価証券報告書等への適用義務化が進められる見込みである。法定開示は、「正しく」伝えることが何よりも大事である。時価総額5千億円未満のプライム上場企業への適用は「203X年3月期」とされていることから、大半のプライム上場企業にとっては、現時点から少なくとも5年以上の猶予があるといえる。

ただ、サステイナビリティ情報の開示手段は、有価証券報告書等の法定開示に限られているわけではなく、適用までの間、無為無策でよいというわけでもない。スタンダード・グロース市場の上場企業、非上場有価証券報告書提出会社については「任意適用の促進により、開示を底上げ」 していくこととされている。開示義務適用まで「猶予のある」プライム上場企業についても当然同様であり、対岸の火事と決め込んでノンビリしてはいられない。

2. サステイナビリティ情報の任意開示

任意開示の手段としては、統合報告書、サステイナビリティ・レポート、自社WEBサイト等が考えられるが、多種多様なステークホルダーの中の誰に向けて、何をどのように伝えていくのか、任意であるがゆえに、各社ごとの企業姿勢や取組姿勢が表れやすいといえる。むしろ、他社との差別化を図る上で重要なコミュニケーション手段と位置付けて活用していくことができる。

また、任意であるから、上場・大企業だけがやると決まっているものでもない。下記のガイドライン等を参照し形式的な適合性を高めることもさることながら、「伝えたい相手に・伝わる」有効なコミュニケーションであるかに、意を用いたい。

たとえば、インバウンド観光が活況を呈しているが、観光業や観光地において、文字やサインの表示だけでなく、企業としてのサステイナビリティの取組を多言語で発信していくこと、また、今後外国人登用を増やしていく企業であれば、採用ページだけでなく会社概要や代表者挨拶なども、求人者として想定する言語で伝えていくことが、「選ばれる」理由になり得る。

ちなみに、筆者の体験の範囲内であるが、日本語で職位や人間関係に忖度しながら練りに練られた文章は、いわゆる言語明瞭・意味不明で(日本語としても困るが)、他言語に翻訳することが困難なことが多い。そういう場合、簡潔明瞭な日本語を書けないのであれば、他言語の文章を先に完成させることをお勧めしている。社内に外国語に精通した人材がいない場合は、社外の専門的の活用が結果的には早道で正確でもある。

3. 「ウォッシュ」の回避

サステイナビリティに関する主張を含むPR・広告宣伝も、サステイナビリティ・コミュニケーションの範疇に入り得る。「ウォッシュ」とは、元々ごまかしという意味だが、具体的な根拠や活動の裏付けなどなく、「地球にやさしい」「環境にやさしい」といったイメージだけをアピールしたり、そもそも虚偽の情報だったりすれば、グリーンウォッシュとなる。

海外ではグリーンウォッシュ規制が導入されて、実際に、罰金が科される事例も生じている。最近ではSDGsウォッシュやESGウォッシュも指摘されている。

「いいことをしている」「いい商品なので、よりよく伝えたい」という善意から、意図せずに「ウォッシュ」批判を受ける結果になるのはいかにも残念だが、それだけでなく、企業価値を毀損し大きなマイナス宣伝になってしまうのであれば何もしないほうがましである。

そうならないために、少なくとも下記のガイドライン類は参照しておきたい。とくに、景品表示法の不当表示に当たらないための取組については①が重要であるが、筆者は本ガイドラインの策定に受託業務でかかわった経験があるので、質問・相談等に対応可能である。

前回・今回記事を踏まえて、 「正しく・伝わる」サステイナビリティ・コミュニケーションをデザインし、実践していただければ幸いである。