Column

2015年1月

第一回: 世界共通語である英語

Variety vs dialect

一言で 「英語」 と言っても国や地域によってずいぶん異なります。国をまたがって使われる言語の場合 「標準語」 とか 「方言」 という区分がしにくい事があります。

イギリスでの標準は、ニュージーランドやオーストラリアやアメリカでは必ずしも標準とは言えません。したがって自分たちに馴染みのない英語を 「方言」 とするよりも、ひとつの 「変種、異形体」 と考え、なぜそのような speech community ができるに至ったのかを考えてみるのも面白いでしょう。
標準語は 「正しい」 、標準語以外は 「正しくない」 というよりも、それぞれの変種は各々立派な言語体系(linguistic system)を持っています。 「方言」 が使われているエリアは政治的、経済的な中心地にならなかったために 「標準」 にならなかっただけなのです。これはどの言語でも同じです。

英語圏では正しい英語、こう言うべき、こう書かなければならない correct or proper way to speak という考え方はあまり古くからあったものではないようです。こうした英語の理想像は Queens English、BBC English、Oxford English、Public School English という言い方で表現されることがあります。ここで焦点を当てたいのは Public school English。ここ1世紀前後の間に出てきた概念です。

パブリックスクール

ビクトリア朝 (1837-1901) のイギリスではイートン(Eton)、ハロー(Harrow)、ウィンチェスター(Winchester)などの地域に全寮制のパブリックスクールがあり、全国から様々なバックグランドを持つ一流家庭の子弟を生徒として集めていました。厳しい教育方針を持っていた事で知られるパブリックスクールは教育の一環として、生徒たちに同じアクセントの英語を習得させました。

将来は社会に影響を及ぼす指導者層となる彼らが話す英語は、一般社会の英語とは明らかに特徴が異なり、あこがれの話し方であったそうです。

イギリスは地域による方言差の他に、属する階層の違いによる階級方言の違いもあります。上の階級に行きたければまず自分の英語の話し方を変えなければなりません。しかし、異なる階級間の交流は少なかったため、田舎の人が首都に出てきて標準語を身につけるのと同じようにはいかなかったのです。

さて、パブリックスクールに話しを戻しましょう。新入生は入学当初に違うアクセントで話していると学校からの指導が入ったり周りから笑われたりという悔しい思いをしながら目指す発音を身につけていきました。

このアクセントの英語を話す人は知的 (intelligent)で、信頼でき(trustworthy)、格好いい(and even better looking)というイメージを人々に与えていたそうです。

ただ、イギリスでラジオ放送が始まってからは状況が変わり、「地域や階級とは関係のない方言」が一気に国中に広まりました。中にはこれを received standard とか super-dialect と呼ぶ学者もいます。

次回はこのあたりの話から英語がイギリスを離れ世界に広まっていく様子についてご紹介します。

担当:翻訳事業部 伊藤