-
グローバル企業のインナーコミュニケーション戦略
-ソニー株式会社様の場合-
多くの企業で、「社内報」のイントラネット上のWebサイト(イントラサイト)への移行が進んでいます。イントラサイトは、企業のビジョン、あるいはゴールを共有するという基本的な機能だけでなく、社員間の双方向コミュニケーション、グローバルや企業グループ内を含めたシームレスな情報共有の場としても活用の範囲を広げています。今回は、アークコミュニケーションズがイントラサイトのリニューアル構築をお手伝いしたソニー株式会社 プロフェッショナル・ソリューション事業本部(以下、PSG)の植田様と三苫様をお迎えし、弊社代表取締役・大里と、プロジェクトを担当した佐藤と柴田の3名が、イントラサイトリニューアルについてさまざまなお話を伺いました。
イントラサイトはビジョンとゴールを共有するための重要な仕掛け
大里:今回、我々アークコミュニケーションズでPSG部内のイントラサイトのリニューアルをお手伝いさせていただきました。まず、PSGについてご説明いただけますでしょうか。
植田様:放送局や映画産業など企業向けに映像機器や撮像機器などを開発し、提供するB to Bの部門です。プロ用機器の取り扱いが主体ですので、汎用的な技術として民生機に搭載される以前の最先端技術に取り組む部門だとお考えいただければいいでしょう。
大里:なるほど、技術におけるプロフェッショナル集団なのですね。では、今回の弊社へのオーダーの背景を教えてください。
植田様:PSGでは、放送業界向けの機材の開発事業だけでなく、監視カメラなどのセキュリティ機器、あるいは非接触型ICカードであるFeliCa(フェリカ)などさまざまな事業があり、これを1つに束ねる必要があります。そのために、事業本部長や副事業本部長といったマネジメント層の方針や施策に関わるメッセージを発信できる場の整備をして欲しいという声があり、イントラサイトの再整備に手を付けることになったのです。
佐藤:今回リニューアルした「B‐Square」は、以前から存在していたわけですよね。その評判はどうだったのでしょうか。
植田様:専任担当者不在のなか、意志をもってサイト運営をする体制になっておらず、その結果、必要最低限の記事更新のみ行われている状態でした。更新頻度も低かったですね。
佐藤:「B-Square」の仕切り直しが、インナーコミュニケーションを改善するキーになるとお考えになったわけですね。初めてお話を伺ったときに、すでにいろいろなビジョンをお持ちだと感じたのですが。
植田様:まず思い出したのが前職のソニーエリクソンでの経験でした。ソニーエリクソンでは四半期に1度、世界中の社員が集まるイベントを開催しているんですね。トップが語るだけでなく、ワークショップをやったり一緒に食事をしたりといったイベントなのですが、これはさまざまな国籍やバックグラウンドの違う人たちが同じビジョンとゴールをシェアするための仕掛けなんです。この記憶がすごく強くあって、この仕掛けをPSGのイントラサイトでやりたいと考えたのです。
大里:そこで弊社にご相談いただいたわけですね。
植田様:イントラサイトで事業本部長のメッセージ、すなわち、共有するべきビジョンやゴールを社員一人ひとりの心に響くように伝えるには、情報も、その器もソニーらしさを持ったものでなければなりません。見やすくないといけないし、格好良くなければならない。そのためにはプロの助けが絶対に必要だと考えて、アークコミュニケーションズに相談したんです。
大里:最初にご相談を受けたとき、海外に向けた情報発信も重要だというお話を伺いました。そこにはどういった思いがあったのでしょうか。
植田様:基本的に開発は国内で行っていて、海外拠点はその販売が主な役割ですから、立場も職種も異なります。ただ、国内でも海外でも目標とするゴールに違いはありませんから、そのゴールを共有するには、グローバルに発信するプラットフォームが絶対に必要です。現在、事業本部長のメッセージなどの翻訳もプロの品質でと考え、アークコミュニケーションズに依頼していますが、やはりクオリティの高い英文でメッセージを発信し、情報を共有することはとても重要です。
三苫様:ソニーグループ内には数多くのイントラサイトがありますが、今は英語の記事はPSGのイントラネットが一番多いのではないかという思うくらい充実してきました。
海外からのほうが高い!
読者のリアクション大里:マネジメント層のイントラサイトに寄せる期待や思いは明快だったと思いますが、一方で現場にはそれとは違う目線があると思います。運営担当の三苫様が課題だと感じられていることはありますか。
三苫様:部内で20名弱ぐらいの方にモニターになってもらい、さまざまなアンケートを実施していますが、横をつなぐ情報の充実への要望が強く、今後どう実現するかが課題ですね。あと、コンテンツはかなり増えてきていると思いますが、見ている方の意見を吸い上げるのが難しくて、どのように読まれているのかが気になります。海外の方はメールでメッセージを返してくれるのですが、国内からのリアクションは多くありません。モニターの方へのアンケートは行っていますが、やはりごく一部の意見だと思うので、何とかうまく意見を引き出せる方法はないかと考えています。
佐藤:海外の方々からリアクションが多数あるというのはかなり貴重ですね。一方で、国内のリアクションが少ないというのは、トップからのメッセージにはリアクションしづらいといった心理的、あるいは物理的な距離感が影響している気がします。縦のメッセージだけでなく、リアクションしやすい横につなぐコンテンツを充実させることで、リアクションしやすい環境を作ることが重要ですね。
柴田:その点では、リニューアルの際にご提案したオフタイム関連の情報は一番リアクションしやすいコンテンツだと思われるのですが、その反響はいかがですか。
三苫様:実はとっても人気があって、アクセス数は非常に多いですね。そこから、別のコンテンツに誘導できるような仕掛けを作れればと考えています。
佐藤:我々はさまざまな企業でイントラサイト構築のお手伝いをしていますが、そこに掲載されているコンテンツを拝見して思うのは、イントラだから自分たちの情報をという意識が強いのか、お客さまがあまり登場しないということなんですね。つまり、自分たちが提供したソリューションに対して、お客さまがどのように感じられたのかを紹介するコンテンツというのはすごく少ないんです。
三苫様:外部の声を紹介するというのは、PSGでぜひやりたいと思っていて、最近では販売会社の方にインタビューし、コンテンツとして掲載するといったことを始めています。ただ、取材をして文章を書くというのは毎回毎回すごく大変です。
大里:そういうときは、ピンポイントで、プロに頼むのもお勧めです。思いがあっても、それを形にしないとコミュニケーションにはならないのですが、経験のない方がゼロから作るのはハードルが高いんです。最初の2、3回を頼んで枠組みを作ってもらうと、「ああ、これなら私に書けそうだ」と思えるようになりますよ。
三苫様:確かにそうですね。最初にひな形があれば、ずいぶん作りやすくなりそうです。
作り手の気持ちが良質な情報を生む
佐藤:今回は最初にPSGに伺ってみなさんとお話をし、現状とご要望の把握を行い、これをもとにしてさまざまな提案を行うという流れで作業を進めました。お客様とご一緒にイントラサイトのあり方にまで踏み込んで考え方を固めていくという作業は、非常にいい経験でしたし、面白かったです。
植田様:できあがったものを見たとき、「ああ、これこれ」という感じでした。イメージどおりのものを目の前にすると、自分は具体的に思い浮かべていたわけではないのに、不思議とすんなり腑に落ちるんですね。
三苫様:単にデザインを作り直してWebサイトを構築するというだけでなく、コンサルティングも含め、コンテンツをどうするかといったところから相談に乗っていただいたのは大きかったですね。自分たちがどんな情報を提供すべきなのか、そのために何をすべきなのかが明確になりましたので、運用のなかでも迷いがなく、モチベーション高く取り組めています。
柴田: そう言っていただけるのは現場としてはとても嬉しいです。植田様や三苫様としっかりコミュニケーションできたことが、今回のプロジェクトの成功要因だと考えています。プロジェクトが進むに連れて次第に皆さんのモチベーションが高まっていくのを肌で感じましたし、気持ちが入っているな、という印象を強く受けました。
植田様:気持ちというのは大事ですね。三苫さんの書く原稿もそうですが、きちんとしたコンテンツを作ろうとするとやはり書いている側の気持ちが入ってくるじゃないですか。事業本部長からのメッセージにしても、すごく忙しい中で飛行機の上で書いている。それが伝わってくるんです。長い文章を書けばいいというものではありませんが、きちんと言葉で伝えるという力は今の時代は衰えつつあるのかなと思うんです。昔ほどみんな言葉を知らないし、難しい四字熟語も分からない。だから、短いフレーズで気軽に発信するといったものが受けていますが、昔ながらの“かわら版的”にイントラサイトのコンテンツを作っていくというのは意味があることだと考えています。
グローバルの情報が面白い!
充実した情報サイトへの進化大里:最後に、PSGのイントラサイトの目標を伺わせていただけますか。
植田様:今後はさらにグローバル化を推し進めていきたいと考えています。日本語文化というのはあうんの呼吸とか目配せとか、話さなくても理解するという文化なので、どうしても英知を集めるということが苦手になってしまうような気がしています。世界に向けてビジネスを展開していればさまざまな話題があるはずですが、多くの場合それを十分に拾えていない、あるいは共有できていないという確信犯的な仮説を持っています。なので、PSGのイントラサイトでは、グローバルでお客さまが困っていることや現場のいい話を集めてくるということをやっていきたいですね。最終的には、英語でコンテンツが書かれているグローバルのイントラサイトの方が面白いという話になり、日本の拠点でも当たり前のようにそれを読むという逆転現象を起こしたいと考えています。情報共有スキームをどう作るか、コンテンツをどうするか、翻訳をからめてどう表現するかなど、これからもご協力をお願いします。
大里:こちらこそ、今後ともよろしくお願いします。本日は長い時間、ありがとうございました。
インタビューを終えて
グローバル展開のお話に中に「言葉の力」「かわら版的」など、「社内報的王道」を散りばめて熱く語って下さった植田さん、とても印象的でした。三苫さんをはじめ、ソニーの方たちとの仕事は、コラボレイティブで刺激的、そして楽しい!といつも感じます。ソニーのこんな素晴らしいDNAを皆様にもお届けしたい!と強く思ったインタビューでした。
-
バックナンバー
- グローバル企業のインナーコミュニケーション戦略(2011年夏号)
- 外国語サイト制作/Webサイト翻訳[英語版](2011年春号)
- グローバルサイト/多言語サイト・ソリューション[英語版](2010年冬号)
- グローバルサイトで市場開拓[英語版](2010年夏号)