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中国語の豆知識 第3回:「書き言葉」と「話し言葉」の違い
前回は、簡体字と繁体字の違いについて特集しましたが、今回は話しことばの違いについてご紹介していきます。
【話し言葉と書き言葉の違い】
香港では、話しことばで広東語を使用しています。一方、文章を書く時は、文字は繁体字ですが書かれたものは普通の中国語と同じになります。しかしこれを香港人が声に出して読むと、広東語式の発音になってしまうので、広東語がわかる人でなければ理解ができません。
注目すべきは、話しことばが違っても書き言葉になると、台湾でも中国でも理解される言葉になる点です。
たとえば「香港」という漢字は日本では「ホンコン」と発音しますが、これは広東語のホンコンという発音に倣っているのです。
これを標準中国語で発音すると「シャンカン」というような発音になります。おそらく香港人が「ホンコン」と発音すると日本人は理解できますが、中国人が「シャンカン」と発音しても、日本人にはまさか香港の事だとは想像もできないでしょう。
中国人同士でも出身地が違えばコミュニケーションがスムーズに取れない状況がたまにあります。感覚的には、だいたいこの様な理由によるものだということがわかります。【方言における違い】
方言間では「発音」だけでなく、「語彙」や「文法」的な違いも存在しています。次の例を見ると、中国語の方言差は、同じ漢字の文字列を各方言固有の漢字の発音で読んでいるだけではないことがわかります。[方言によって文法や語彙に差がある例(話し言葉)]
- 「今ご飯を食べているところです。」を標準中国語と広東語で比較
中国語: 我 现在 在 吃 饭。 Wo xianzai zai chi fan. (私は/今/ている/を食べ/ご飯)
広東語: 我 而家 食 緊 飯。 Ngo yiga sek gang fan. (私は/今/を食べ/ている/ご飯)ただし、これは「話し言葉」での差であって、書き言葉になると、簡体字・繁体字の差はありますが、どの方言を母語とする人でも標準中国語のように書かなければなりません。
例えば、上記の例文を香港人が文字に書く場合は繁体字で次のように書きます。[香港で書かれる中国語の例]
我 現在 在 吃 飯。 Ngo yinjoi joi hek fan. (私は/今/ている/を食べ/ご飯)
※ 繁体字で書かれたこの例文の意味は上記の「中国語」の文と同じです。
しかし発音は広東語と中国語では非常に異なっているのがわかります。【多言語社会・中国】
この様に、標準語圏以外の地域で暮らす中国人は、「自分たちが日常話す言葉」とは非常に異なる体系の「書き言葉としての標準中国語」を習得する必要があります。
そのことから、日本人が国語(日本語)を学ぶのと、中国人が国語(中国語)を学ぶのでは、その負担に大きな差があることが想像できます。お客様から中国語翻訳のご依頼をいただく時に時々「台湾語に翻訳してほしい」「繁体語で翻訳してほしい」という言い方でご発注をされる方がいらっしゃいます。その場合は「標準的な繁体字中国語」(つまり台湾や香港で通用するもの)を求めていらっしゃる場合がほとんどです。
中国は漢民族だけでなく、それ以外に 55 の少数民族が暮らしており、独自の文字や言語を持っていることが多いです。台湾を含めれば、少数民族やその言語数は更に増えます。しかし彼らすべてが中国語を共通語として習得する必要があるので、日本とは異なり複雑な「多言語社会」と言う事ができるでしょう。
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バックナンバー
- 中国語の豆知識 第3回:「書き言葉」と「話し言葉」の違い(2011年夏号)
- 中国語の豆知識 第2回:ふたつの流派がある中国の文字[英語版](2011年春号)
- 中国語の豆知識 第1回:中国語の多様性[英語版](2010年冬号)