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中国語の豆知識 第7回: 話し言葉で異なる外来語
【外来語はどこから流入したか】
最近は、世界的に見て中国の存在感がますます大きくなる一方、香港の存在感が、返還(1997年)前に比べると小さくなってしまったような気がします。元気だったころの香港では、外国文化はまずこの地に入ってきて、香港(広東語)を通して中国に広まっていった時代がありました。そして外来語もこのルートで中国語の中に溶け込んだと思われるものが多くあります。
どの外来語がそれにあたるかは、漢字表記された音訳外来語を、広東語と標準中国語のどちらで発音するとより原語に近く聞こえるかを確かめることで、おおよその区別がつきます。まず広東語経由で入ってきた外来語の例です。■カナダ(加拿大) → (広) ga na dai (カー ナー ターイ) → (標) jiā ná dà(ジヤー ナー ター) ■タクシー(的士) → (広) dek si (テック スィー) → (標) dì shi(ティー シー) それに対して、明らかに標準中国語経由で入ってきたものとしては、
■クリントン(克林顿) → (標) kè lín dùn(カー リンドゥン) → (広) hak lam dun(ハック ラム ドゥン) ■プーチン(普京) → (標) pǔjīng(プー チン) → (広) pou ging (ポウ ケン) のような例があります。「クリントン」に至っては、広東語で発音されても、あるいは上記のローマ字表記を見ただけでも、まさかクリントンのことだとは想像もできません。「中国語は書く時にはどの方言も漢字で表記するので(方言の差はあっても)ひとつの言語だ」と言われることもありますが、話し言葉ではやはり各地各様で相当異なっています。
【複数ルートで入ってくる外来語】
次に、標準中国語と広東語がそれぞれ独自に取り入れたと考えられるものに、
■チョコレート: (広) 朱古力 jiu gu lek(ツィウ クー レック) / (標) 巧克力 qiǎo kè lì(チアオ カー リー) ■カード: (広) 咭 kat(カッ) / (標) 卡 kǎ(カー) のような例があります。使われている漢字表記も異なりますが、標準中国語と広東語それぞれのネイティブが発音すると、元の言葉らしく聞こえます。
ちなみに広東語は、かつてはいわゆる北方の中国語と勢力を2分するほど、広く使用されていました。それが孫文の時代に、中国の国語を決めるべく投票を行った結果、わずかな差で現在の中国語が標準語となったと言われています。
さて、前回から二回にわたり、中国語の中の外来語の例をいろいろとご紹介してきましたが、「なるほど」と思っていただける点はありましたでしょうか。中国語における外来語について、もっと系統立てて解説しているホームページや書籍も数多く出ていますので、興味をもたれた方はこれを機会にぜひ掘り下げてみてください。担当:翻訳事業部 伊藤
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バックナンバー
- 中国語の豆知識 第7回: 話し言葉で異なる外来語(2013年夏号)
- 中国語の豆知識 第6回: 中国語の中の外来語[英語版](2012年冬号)
- 中国語の豆知識 第5回:日本で生まれた漢字[英語版](2012年夏号)
- 中国語の豆知識 第4回:日本と中国の「漢字」の違い[英語版](2011年冬号)
- 中国語の豆知識 第3回:「書き言葉」と「話し言葉」の違い[英語版](2011年夏号)
- 中国語の豆知識 第2回:ふたつの流派がある中国の文字[英語版](2011年春号)
- 中国語の豆知識 第1回:中国語の多様性[英語版](2010年冬号)