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英語の豆知識 第一回: 世界共通語である英語
今回から始まる「英語の豆知識」では、英語という言語が持つ様々な背景を、毎回色々な角度から紹介していきます。
【世界で使われる英語】
英語は今や世界共通語だということに疑いの余地はありません。異なる国から来た人たちがいる場所で相手が何語を話す人かわからない場合、ほとんどの人がまず試してみるのは英語です。旅行や仕事で世界を旅する人々の間で、英語をコミュニケーションの手段にしている人の数は、日々数十億は軽く超えています。英語が共通語として用いられる例は枚挙にいとまがありませんが、具体的な例をいくつかご紹介します。
冷戦時代のソ連でも、ロシア語の中に多くの英語が外来語として取り入れられていました。
[例] rock music : рок-музыка, disk jockey : диск-жокей, hooligan : хулиган
東西が二分されていた時代でも、こと英語には境界はなく、有史以来これほどの影響力を他言語に与えた言語はありません。航空業界ではパイロットと管制官の間で英語を共通語としてやりとりをすることになっています(the universal language of air traffic control)。日本人のパイロットが操縦する飛行機が日本人の管制官の指示のもと日本の空港で離着陸をする時でも例外ではありません。
世界の主要国で発行される新聞は10,000種類を超えており、そのおよそ半数が英語のもの。その内インドだけでも4000を超える種類が発行されています。英語圏の国でなくても英字新聞はどの国でも手に入ります。
また世界的にみると、テレビで放送されるニュース番組も圧倒的に英語によるものが多いのです。そのため中東でもアジアでも、デモのニュースでは英語で書かれたプラカードを掲げて行進する様子がよく見られます。これはもちろん、テレビに映るデモの映像を利用して自分たちの主張を世界に訴えかけるためです。【語彙が豊富な英語】
英語は世界に広がると同時に、あらゆる言語からも影響を受けています。そのためもあって、英語という言語が持つ語彙の豊富さも、他言語の追従を許しません。Oxford English Dictionary にはおよそ50万語が収録されています。と言われてもこれが多いのか少ないのか、見当がつかないでしょう。イギリス近隣の主な言語と比べてみると、ドイツ語の語彙は18.5万、フランス語は10万です。こう聞くと、英語がいかに豊富な語彙を持つ言語かということがわかります。
【国際語としての英語】
英語を母語としている人はおよそ4億人。この数は中国語の諸方言を合わせた話者の数ほどには及びませんが、中国語はその話者が一国に集中しているのに対し、英語の使用者は世界各地に分散しています。また英語は、それを母語としない人にも広く使用されており、その数は3億とも4億とも言われます。ナイジェリア、シンガポール、インドなどの多民族国家では英語は第二言語とされており、行政、放送、教育では欠かせない言語です。また外国語としての英語教育は、それを行わない国の方が少数派です。
このように母語としてであれ、第二言語としてであれ、外国語としてであれ、英語の国際語としての地位は不動です。「標準的な英語」とは何かについて考えるのも有意義ではありますが、ネイティブ以外の人々にこれほど広く使われている現実を知ると、「各種英語」の存在を認め受け入れる事も同じく重要です。
とは言え、詳細はここでは触れませんが、灯台下暗しで、本国イギリスで英語が第一言語ではない地域があるのも興味深いです。北部スコットランドには、英語ではなくゲール語が第一言語として話されている地域があります。ゲール語とは、他のヨーロッパ言語の様に名詞は性別や格変化を持ち、文型は動詞で始まるものが基本です。
例:ゲール語 VSO(動詞+主語+目的語)/ 英語はSVO(主語+動詞+目的語)【Variety vs dialect】
一言で 「英語」 と言っても国や地域によってずいぶん異なります。国をまたがって使われる言語の場合 「標準語」 とか 「方言」 という区分がしにくい事があります。イギリスでの標準は、ニュージーランドやオーストラリアやアメリカでは必ずしも標準とは言えません。したがって自分たちに馴染みのない英語を 「方言」 とするよりも、ひとつの 「変種、異形体」 と考え、なぜそのような speech community ができるに至ったのかを考えてみるのも面白いでしょう。
標準語は 「正しい」 、標準語以外は 「正しくない」 というよりも、それぞれの変種は各々立派な言語体系(linguistic system)を持っています。 「方言」 が使われているエリアは政治的、経済的な中心地にならなかったために 「標準」 にならなかっただけなのです。これはどの言語でも同じです。英語圏では正しい英語、こう言うべき、こう書かなければならない correct or proper way to speak という考え方はあまり古くからあったものではないようです。こうした英語の理想像は Queens English、BBC English、Oxford English、Public School English という言い方で表現されることがあります。ここで焦点を当てたいのは Public school English。ここ1世紀前後の間に出てきた概念です。
【パブリックスクール】
ビクトリア朝 (1837-1901) のイギリスではイートン(Eton)、ハロー(Harrow)、ウィンチェスター(Winchester)などの地域に全寮制のパブリックスクールがあり、全国から様々なバックグランドを持つ一流家庭の子弟を生徒として集めていました。厳しい教育方針を持っていた事で知られるパブリックスクールは教育の一環として、生徒たちに同じアクセントの英語を習得させました。将来は社会に影響を及ぼす指導者層となる彼らが話す英語は、一般社会の英語とは明らかに特徴が異なり、あこがれの話し方であったそうです。
イギリスは地域による方言差の他に、属する階層の違いによる階級方言の違いもあります。上の階級に行きたければまず自分の英語の話し方を変えなければなりません。しかし、異なる階級間の交流は少なかったため、田舎の人が首都に出てきて標準語を身につけるのと同じようにはいかなかったのです。
さて、パブリックスクールに話しを戻しましょう。新入生は入学当初に違うアクセントで話していると学校からの指導が入ったり周りから笑われたりという悔しい思いをしながら目指す発音を身につけていきました。
このアクセントの英語を話す人は知的 (intelligent)で、信頼でき(trustworthy)、格好いい(and even better looking)というイメージを人々に与えていたそうです。
ただ、イギリスでラジオ放送が始まってからは状況が変わり、「地域や階級とは関係のない方言」が一気に国中に広まりました。中にはこれを received standard とか super-dialect と呼ぶ学者もいます。
次回はこのあたりの話から英語がイギリスを離れ世界に広まっていく様子についてご紹介します。
担当:翻訳事業部 伊藤
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バックナンバー
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