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中国語の豆知識 第5回:日本で生まれた漢字
もともと漢字は中国で生まれたものですが、日本や朝鮮半島などにも伝わり、そこで独自の変化や発展を見せています。その中には「朝鮮で生まれた漢字」や「日本で生まれた漢字」などがありますが、今回は後者の「日本で生まれた漢字」についてご紹介したいと思います。
[日本の漢字]
日本で生まれた「国字*1」の代表的なものとして、榊、峠、畑、栃
のような漢字があります。これらの字は中国では使われていません。では、この漢字を含んだ日本語を中国語に翻訳する時はどうするのでしょうか。パソコンで中国語として普通に入力しようとしても、これらの字は出てきません*2。そこで、代用として次のような漢字で置き換えてしまうことがあります。
榊=神、峠=卡、畑=田、栃=枥
この表記は誤字脱字とはみなされず、中国では「榊原(さかきばら)さん」と「神原(かみはら)さん」、「畑山(はたけやま)さん」と「田原(たはら)さん」は、それぞれ同じ表記になってしまうことになります。日本人として自分の名前が中国でも漢字で正しく書いてもらえるかどうかは興味深くもあり、時には心配にもなります。もし中国へ行って、手書きの領収書を貰う時など、自分の名前を書いてもらう必要ができた時には、まず自分でお手本を書いて見せ、「これと同じ字を書いてくれ」と頼むと良いでしょう。中国にいるすべての外国人たちは名前を漢字で表記するため、お手本を見せてあげることは特別変わったことではないのです。
ちなみに中国の辞書にはこのような国字が、「日本の漢字」という扱いで、掲載されているものもあります。[日本で生まれた熟語表現]
国字以外にも、日本で生まれた「既存の漢字の新しい組み合わせ」が中国に伝わり、広く使われるようになった熟語表現も数多くあります。これは、明治になって日本が西洋文明を他のアジア諸国に先駆けて取り入れるようになった時に生まれました。開国前の江戸時代の知識人たちは漢文の教育を受けていたので、西洋語が入ってきた時に、現代のようにカタカナ化するのではなく、あくまでも「漢字」で表現することに専念したのです。この時に生まれた既存の漢字による新概念は、中国や朝鮮半島にその後逆輸入されるようになりました。■逆輸入された日本生まれの熟語の例:
哲学、民主、銀行、共和国、元素、社会、保険、共産、民主、科学、電気、人民、概念、などなど[表面上の理解だけでは難しい翻訳]
古代では中国や朝鮮半島から日本が学び、また時代が変わって日本が中国や朝鮮半島に大きな影響を与えるようにもなりました。現代では、日本がまた中国や朝鮮半島から影響を受けるようになってきています。「翻訳」をきっかけに言葉、言語に目を向けると、必ずその言葉の背景にある文化や歴史にたどりつくことになります。翻訳をする際には表面的な言葉の意味だけではなく、常に文化、歴史はもちろん、習慣や国民性といった、言葉の背景にある大きなものを意識しなければならないという事がよくわかります。ある種のドキュメントを書き起こすとき、それが後に翻訳されることが分かっているのであれば、翻訳しやすい内容構成で組み立てておくと、各国語展開の上でうまくいくことは間違いありません。
担当: 翻訳事業部 伊藤
*1 日本で作られた、漢字体の文字のこと *2 日本語として入力してunicodeを使えば表示させること自体は可能 -
バックナンバー
- 中国語の豆知識 第5回:日本で生まれた漢字(2012年夏号)
- 中国語の豆知識 第4回:日本と中国の「漢字」の違い[英語版](2011年冬号)
- 中国語の豆知識 第3回:「書き言葉」と「話し言葉」の違い[英語版](2011年夏号)
- 中国語の豆知識 第2回:ふたつの流派がある中国の文字[英語版](2011年春号)
- 中国語の豆知識 第1回:中国語の多様性[英語版](2010年冬号)