今日は翻訳事業部らしい話題を書いてみたいと思います。
一言で「中国語」と言って、「簡体字中国語」と「繁体字中国語」の区別があるのをご存知の方も多いと思います。前者は中国での標準語を指し、後者は台湾の中国語を指すのが普通です。今でこそ中国と台湾の関係は非常に接近していてお互いの行き来も何とか可能になっていますが、冷戦時代は相互訪問が一切禁止されて敵対していました。つまり、もともと過去のある時点で同じ中国語を話していたのに、両者の行き来が何十年もの間途絶えてしまったことで、中国語がそれぞれの地で違う方向に進化を始めたのです。簡体字中国語と繁体字中国語という2つのバージョンの中国語が存在するのも、この様な歴史的、政治的な理由に起因しています。
中国では識字率を増やしたいという思いで簡略化した字体の漢字(簡体字)が制定されました。一方台湾ではその様な動きは出ず、むしろ伝統的な字体の漢字(繁体字)の使用を義務付けています。繁体字は確かに書くのも難しく、「台湾」を繁体字で書くと「臺灣」になります。ただ台湾で小学生が繁体字をすらすら書く姿を目にしたときは、ちょっと尊敬のまなざしで見てしまいました。
また文字だけではなく、単語の意味や用法も違う方向に変化をしています。例えば、
[中国] [台湾]
「駅のホーム」 站台 月台
「...に乗る」 座... 搭...
「タクシー」 出租汽車 計程車
のように、ここでは乗り物関係の例を挙げましたが、これだけにとどまらず厚い辞書が作れるほどの語彙の違いがあります。
先日ある企業の中国語版のウェブサイトが、繁体字で書かれているのに、実は内容が簡体字中国語的なものになっており、台湾の方が見た瞬間に「あ、これは中国で翻訳をしたものだ」という事がわかったケースがありました。確かに、簡体字と繁体字を自動で変換できるソフトもあるので、台湾向けのものであるにも係わらず中国で翻訳を行うと、非常におかしなことになるといういい例だと思いました。中国向けのものを台湾で翻訳をしても同じ事になることでしょう。
一言で「中国語」と言っても、「簡体字中国語」と「繁体字中国語」は別言語として扱ったほうがいいですね。
ところで日本の漢字はどうでしょう?いわゆる戦前に使われていた「旧字体」が繁体字だとすると、今日使われている字は少々簡略化されていますね。そういう意味では「一種の簡体字」なのでしょうか?でも今中国で使われている漢字の略され方は、とってもドラスティックです。
それからもし日本以外で日本語を国語としている国があったとしたらと空想してみると、その国での日本語はどういう進化の仕方をしていくのか、ちょっと興味津々です。
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